読書記録

2007年04月12日(木) 寒椿              宮尾 登美子


 小奴の澄子、久千代の民江、花勇の貞子、染弥の妙子、いずれも生活が貧しくて親兄弟の生活のために芸者になる
本人の人生観にもよるけれど、貧しいがゆえ最後は芸妓ではなく娼妓にまで落ちていく民江と貞子
そして戦争という抗えない運命の中で、金と男と意地がそれぞれの相手の家業に身を投じて生きていかなくてはならない女たち
そんな四人と対照的な置屋の娘悦子
格差が広がってきた現代にも通じることだけれど、どういう家に生まれるかということは運といってもいいのだろうか

これは些細な事かも知れないが、小はここから始まって大は悦子が辿って来た生きかたまで、彼女たちに恨まれれば恨まれるだけの根拠は充分あると近頃になって悦子の臍も固まって来た感がある。
というのも、二十代三十代では全く見えもせず気も付かなかったものが、五十という年にもなれば歩いて来た道の跡がかなり明らかに見えて来るせいで、悦子がそれを思い返すのは、同時に彼女たちにも過去の姿が蘇っているに違いないと内心恐れている為でもあった。

「見どころとてなし韮の花」

「韮の花とて蝶集む。民江お前にも必ず盛りの時期がやって来る。悲観する事はない」








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