| 2007年04月22日(日) |
かずら野 乙川 優三郎 |
足軽の次女・菊子は、糸師の大店・山科屋に妾奉公に出される。絶望に沈む彼女の前で若旦那の富治が父である主人を殺害する。嫌疑を逃れるため山科屋を出奔し、富治とかりそめの夫婦となった菊子は、夫のために人を裏切り、罪を背負って生きていかねばならなかった。
菊子がかずら野を越えてたどり着いた地で流産して、子を弔うために富治が死んでしまった後でもその地でひっそりと生きていくのだろう・・
どこか遠い地の果てに離れてしまったのならともかく、人と人との関りにこれで終わりなどという境目があるはずがないのだと思っていた
人には生まれながらに持ち合わせている明るさや強さというものもある、そういうものはどこかしら人の芯の部分にあって、外に現れたり隠れたりしながら人生の最後までついてくるのじゃないかな
菊子はふと立ち止まって、何もない野辺を眺めた。がらんとして耳鳴りがしそうな広野は、今日まで男と歩いてきた道そのもののようでもあるし、これから歩かなければならない道そのものでもあった。すると、そこに立ち止まっていることが悲しいほど虚しく感じられて、歩き出さずにはいられなかった。早くどこかへ行かなければと思いながら、あまりの広さに茫然とする気持ちだったが、思えば道を変える勇気がなかったために、行きつくべくして行きついたところだった。 何をして生きてきたのか、何のためにそこを歩いているのか、まったくわからないような虚しさだった。 とうとう来るところまで来てしまったらしい。そう思いながら歩くうちに彼女は夢の中にいるように錯覚し、いまいる野辺を越えれば札所が待っているような気がした。そこで札を納めて罪をひとつ減らしてもらい、あとはもうどこへなりと札所を目指し、男とともに身を清めてゆくしかないのだった。葛を踏む度に悲鳴が聞こえるように思われ、彼女は一刻も早くそこを出たいと思いながらも、そのために踏み続けるという矛盾を繰り返すしかなかった
私も娘のことを思ったら道を変える勇気がなかったと言うしかない
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