読書記録

2008年07月03日(木) 梨の花             中野 重治

 昔 子供に昔話などのお話をする人 を募るというのが市の図書館で開催されたことがあった。
私は 子供への本の読み聞かせ をするものだと勘違いして申し込こんで何回か講義をうけた。
その時にお薦めの本としてこの『梨の花』が紹介されていた。
私は勘違いしていたことも含めて 子供にお話を聞かせる ということが思っていた以上に奥が深いことを悟って、折から母が入院したために頓挫してしまった・・。
と いうことは9年前か・・。

誰しも幼い時の記憶はあるが、この作者のそれは格別のものだ、とある。
主人公の高田良平少年の尋常小学校1年生から、福井中学校1年生までの作者の実体験だろう・・福井の片田舎の百姓家の様子がとても詳しい。
ちろちろと燃える囲炉裏の側に私も座り込んでかき餅を焼いているような。

文中に
「楽しいお正月です。
男の子はたこ揚げをします。
女の子は羽根つきをします。」
という文が当時の読み方の本に紹介されていて、その文に良平少年は憤慨するのだ。
そりゃ町中のもんはたこ揚げや羽根つきをするかもしれんけど、うらでは正月といえば吹雪いて雪の真っ只中にいてだれもたこ揚げや羽根つきはせんのだ、と言うのだ。ここらへんが大人しいけれど、後に日本共産党に入党する作者の本質が見えたように私は思った。
明治から大正に世の中が変わっていくときで、伊藤博文の暗殺や日韓併合、明治天皇の大喪など良平少年の静かな観察が続く。
でも この時代 貧しい百姓家では子供は尋常小学校を卒業すればすぐに、男の子も女の子も丁稚や女中奉公をしたものだ。
そういう社会情勢のなかでは良平少年の家はその枠にはまらない。

それでも こうまで少年時代を描写してくれたことは素晴らしい作品なのだと、静かな感動を覚える。
ちなみに 梨の花は田植えの頃に白い花をつける。














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