読書記録

2008年07月16日(水) 天空の橋            澤田 ふじ子

 この物語には主人公が三人いる。

城崎温泉の宿で下働きをしていた八十松と、京都五条坂の積問屋の主・高野屋長左衛門とそして粟田焼のすぐれた職人の喜助とだ。
八十松が長左衛門の薦めで喜助のもとで陶工として修行を始めたのが15歳のとき、彼はまだ子供だけれど頭に白いものが混じる長左衛門と喜助にはいろんな人生の重荷があった。
その三人が五条坂の焼物の隆盛を目指し力を注いでいく。
だが 長左衛門は己の犯した罪を悔い一切所業の業を受け入れたく真如の世界を目指して天空に飛ぶのだった。

作者は
人間はいつの時代でも、取り巻く社会の状況が変わっただけで、本質においてはさして変化していない存在。こうした人間に、時代物の衣裳をまとわせ、私はいまの人間や社会を描いているつもりなのである、と言う。
先に読んだ『もどり橋』や『幾世の橋』と同じように、主人公の職業や状況が少し違うだけで人は決して一人で生きているのではないということを改めて教えてくれているのだ。
いろんな人の教えやそして何よりお互い様の気持ちなのだろう。
「誰でもいいから殺したかった」という無差別殺人やその模倣犯がはびこる昨今にこのような物語こそがベストセラーになるべきなのだ・・と心から思ったことだ。


神仏が作られたこの世のすべてのものの中で、最も愚かで汚らしいのは人間。だがその愚かで汚らしい欲望を幾重にもまとわせながら、人間は生きていかなければならない宿業にある。
















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