| 2010年06月02日(水) |
流離譚 安岡 章太郎 |
作者が父親のルーツを遡って幕末の土佐藩士に辿り着いた。
その一人、安岡嘉助は土佐藩の参政吉田東洋を斬って天誅組に加わり、掴まって京都で打ち首になった。 そしてその兄の覚之助はやはり勤王党に加わり、戊辰の役のときには板垣退助の下で小軍監というのをつとめ、会津で流れ弾に当って死んだ。
戦いの最中に覚之助が郷里の父に宛てた書簡や様々な資料を材に解説者たちが言う歴史小説になった。 土佐の安岡家はお上家、お下家、本家、お西家とに分かれており、家督を守るためにお互いから嫁をもらったり養子に出したりといったややこしい現実と、随所に引用されている資料は候文で旧仮名遣いだったりで上下2冊の文庫本を読むのに1ヶ月もかかってしまった。 そしてそれはそのまま作者が資料と歴史とに格闘しただろうと想像するのだ。 簡単には姿を見せてはくれない資料の森の中をほとんど手探りで歩かざるを得なかった作者の苦労のあとが見える、と解説も述べている。
でも私の希望としては 時代の流れとともに主人公を変えていく本当の物語というか小説が読みたかった思うのだ。
『天誅組天誅録』『大和日記』に加えて『維新土佐勤王史』『武市揣山関係文書』などは、今テレビで放送されている『龍馬伝』の解説書のようなものでこれは面白く読んだ。
とくに 人斬り以蔵といわれた岡田以蔵が捕縛から逃れるために逃げ回っていたテレビの中での様子ともダブってとても印象に残った。
君が為尽す心は水の泡 消えにしのちぞすみ渡るべき(岡田以蔵) なげかじな長き別れの今日とても もと大君の御為なりせば(安岡嘉助) かくばかり降りゆく世を梓弓 引き返さずばいかで止むべき( 々 ) ふるさとを思ふ寝ざめにふる雨は濡らぬひとやもぬるゝ袖かな( 々 )
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