読書記録

2010年09月30日(木) 謀略の渦  有間の皇子の生涯     山路麻芸



 いつも本を借りている図書館で、平城京遷都1300年に関した図書の特集をしてくれているので、今まで知らなかった物語に出会うことができてとてもうれしい。




 偽りの世の汚濁に染まぬ少年有間皇子にとって、張り巡らされ、策謀される奸計の罠をくぐり抜けるのは並大抵のことではない。
なんといっても、相手は、知略にたけた冷徹な中大兄皇子であり、深謀遠慮の中臣鎌足であり、出世欲に目のくらむ蘇我赤兄である。
いかに有間皇子が智力を尽し、狂人を装ったところで歯のたつ相手ではないのだ。
有間皇子は彼が、孝徳天皇の皇子として生まれたということに最大の原因がある。
天皇家の男子は天皇になるか殺されるか、どちらかの道しかないのかも知れない。

今を生きる我々は有間皇子の悲劇を知っているから、物語が進んで蘇我赤兄が皇子に近づいてきたときには思わずダメよ!、
罠にかかったらあかんよ!と叫んでいた。

再び八釣姫の待つ一分の里に帰ることもなく、有間皇子は藤白坂のかたえの荒土に十九歳を一期として、永遠に返らぬ旅路へと旅立ったのだ。
それにしてもいつもいつも為政者の非情さをしみじみと思わずにはいられない。



磐代の 浜松が枝を 引き結び 真幸くあらば また還り見む
                  万葉集、巻3−141

家にあれば 笥に盛る飯を 草枕 旅にしあれば 椎の葉に盛る 
                  万葉集、巻3−142
















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