読書記録

2011年10月08日(土) 出世花            高田 郁

 火葬が普及し始めた江戸の世、亡くなった人々の体を、焼き場にもちこむ前に湯灌をし、身奇麗にしてから棺に入れる、そんな墓寺があった。

 物語の主人公である少女・縁の父親は、妻敵討ちのために、藩を離れて長い旅に出ていた武士だった。しかし道なかばで毒草にあたって、倒れてしまう。はからずもその末期を看取ることとなった寺の人々は、死にゆく男の願いを聞いて、ひとり残された少女の面倒を見ることになる。

縁は最初、艶という名だったが寺の住職・正真によって呼び名は 同じ ”えん”でも、縁という字に変えて、その後 正式に湯灌に携わるようになってからは 正縁 と名乗った。
名前を変えて成長していく出世魚に例えて、名前を変えていくことで 縁は人間として成長していく。
 
ときに屍洗いと侮蔑されて傷つき、ときに隠された人のつらい秘密に触れて苦しみながらも、心を込めて遺体を清め続ける縁はやがて、その心根の美しさから人々に 三昧聖 と呼ばれるようになる。

 読みやすい物語で 江戸の女版『おくりびと』をみているようだった。










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