| 2012年06月23日(土) |
朱鳥の陵 坂東 真砂子 |
春過ぎて夏来たるらし白妙の 衣干したり天の香具山
これはあの有名な持統天皇の詠んだ句だが、作者のあまりにも自由な解釈というか想像力でこの物語が生まれたのだろう。 私には恐ろしくて 読んでいる途中からこれは歴史ミステリーだと感じた。 白妙とよばれた日枝夢解売(ひえだのゆめときめ)の生き皮が木の枝で揺れているさまである。持統天皇(讃良皇女)の心に滑り込み、見てはならないものを見てしまった白妙が受けた罰。生き剥ぎされた者の霊は夜見国にいくこともできなくなる、神代のころからあった古い呪いだそうだ。 持統天皇(天智天皇の娘、讃良皇女)が太上天皇となり、孫の珂瑠皇子が文武天皇であったころのお話。 白妙は常陸国香島郡から倭国に召された。御名部皇女の夢解きをするためである。亡くなった高市皇子が妻である彼女の夢に現れ、耳成山を背景に無言のまま名無しの指をかかげて見せたのはなぜか。 天智天皇は自分の娘を4人までも弟の大海人皇子(天武天皇)に嫁がせる。天武の皇子は高市、草壁、大津、忍壁、長、新田部、と大勢いたが、讃良皇女の子は草壁皇子ひとりである。讃良は夫亡きあと、同母の姉の子大津皇子に謀反の罪をかぶせて抹殺する、それが手始めだった。ここまでは私も知っている。 讃良皇女の心に入り込んだ白妙は過去から現在までを追体験していく。そのなかで、高市皇子が讃良皇女の命で鴆毒とよばれる不老不死の仙薬を百済人に作らせたことを知る。そうして、女帝が誰にどのように使ったのかも。日々少しづつ飲めば薬となるが、一度にたくさん飲めば命が危うい<とけない雪>の異名もあるものだ。高市皇子が名無しと呼ばれる薬指をたてていたのは、沙門となって薬師如来に祈りを捧げたかったのだと、白妙は夢解きをする。 讃良皇女は自分の心に入り込んだ者の名を知る。その怒りは凄まじい。
(ただですむとは思うなよ。生き皮を剥いで晒して、木にひっかけてやる)
逃げる白妙を倭の国で図書寮に勤めている兄の皁妙が逃亡を助けようとするのだが、彼は讃良皇女にあやつられてしまう。白妙の霊は黒漆のような闇が詰まった壺のなかに永久に閉じ込められる。 皁妙は大納言(藤原不比等)の命により名を変える。稗田阿礼と。
大津皇子のみならず夫の天武天皇も息子の草壁も高市皇子までもを持統天皇が殺めたという設定も面白いが、稗田阿礼の登場にもびっくりした。 いろんな歴史上の史実や残されたものから、こうも面白い物語を書くなんて。
そして ふられていたルビがとても有難かった。
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