なか杉こうの日記
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今読んでいるのは岩波新書の小関智弘著「働きながら書く人の文章教室」この方は高校を卒業後、工場で働きながら読書会を何十年も続け、小説を書いてきた。その軌跡が書かれている。
いわゆる、昔風の、下町の旋盤工として働きながら仲間とともに文学について語り、書きつづけるという、オーソドックスな文学青年風の生き方であるが、それがとても心地よい。
小関さんは芥川賞、直木賞の候補にもなったというから、とても有名な方なのだろう、私が知らないだけなのだろう。
この本の中には、いくつも線を引いておきたい個所がある。長く続く同人誌には必ず「下足番」のような編集者がいる。地味だけれど、参加したい人にはすっと下駄をそろえてくれる、決して「これがいい」と主義を主張することなく、誰でもが参加できる、いやならばやめることができる、そういう雰囲気を作ってくれる・・・というところ。
小関さんは実際に工場に勤め始めた頃、そこに働く人々は決して気負った「労働者諸君!」などと呼ばれるような人々ではなく、ごくあたりまえの、普通の人々だったことに気づいた。そうした普通の人々のことを書きたい、と思ったという。
小関さんが70歳になるまで続いた読書会。そこで読んだ本。数々のメモ。彼は仕事を始めるまで、頭が小説モードで、それでも実際に鉄に向かうと、次第に仕事モードになっていった。仕事といっても営業や教員ならばこうは行かなかっただろう、という。相手が鉄だから、仕事の傍ら小説の筋書きを考えることができた。
彼は仕事をしながら頭の中で表現を考え、それを暗記した。原稿用紙一枚分ぐらいは書く予定の内容を暗記するぐらいまで頭のなかで練ったらしい。それを土曜日に原稿用紙に実際書いてみると、ちっとも面白くない。全くだめだ、と思う。そこまでが「捨て」の作業で、日曜にまったく新しいところから書き直す。
本当に楽しそうである。こんな風に読書会をして、人と交流し、自分はさらっと呼んだ本を人はもっと深く読んでいることに感銘を受け・・・という風にやっていけば、とても楽しいしエキサイティングだと思う。
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