2004年11月16日(火) |
「新選組!」第38・39話 |
●第38話「ある隊士の切腹」
勇は伊藤を連れ長州の処分を通達するために広島へ向う。勇の留守中観柳斎は西洋の軍学の翻訳本をどうしても手に入れたく、勘定方の河合に隊の金50両を融通してもらう。しかし最新のその翻訳本を土方も手に入れたがっていた。そこで歳三は河合に隊の公金の確認を指示するが、当然50両の不足が発覚する。 問い詰める歳三に河合は観柳斎の一件のことをひたすら胸に秘める。5日以内に実家からの送金で埋め合わせをすると河合は切り出したが、既に観柳斎とのことをうすうす感ずいている歳三は10日の猶予を与えた。
隊内でもこの一件のことが漏れ、隊士達は河合の為に懸命に金集めに奔走するが、なかなか50両を用意することが出来ない。 刻々と期限が迫ってくる。さすがに観柳斎も気がひけたのか、購入した翻訳本を店に返却し50両を返してもらうと河合と約束する。しかしその店で彼が一番脅威を感じている伊東の参謀の加納がそれを欲しがっている事実を知らされ決断がにぶってしまった。自分の甲州の軍学がもう時代遅れであることを一番感じていたのは観柳斎自身であったのかもしれない。新選組の中で自分の居場所を確保したい…。高飛車な態度とは裏腹にあさましい小心者であった。
河合切腹の中止を懇願する隊士達に歳三は山南の話を出す。ここで例外を認めてしまったら山南にあわせる顔がない…。 局長ならばここで違う決断をした…そんなことを口にする隊士もいたが、勇と歳三は違うのだ。その相違が新選組を新選組たらしめているのではないのか…?
いよいよ河合は観柳斎の件を歳三に白状したが、どうして最初に報告しなかったのだろうか…。「自分も世のため役に立ちたいのだけれど何をしたらいいのか分らない。」と言いながら新選組に入隊した河合。自分の名前を書く時だったか・・顔を異常に机の上の紙に近づけていた河合の姿が思い出される。根は争いごとが嫌いで人がよく、武士の魂などとはほど遠い性分なのだ。 時すでに遅し…。観柳斎のあこぎさの方が上回っていた。
「飛脚は…飛脚は…」と最後までうわ言のように言いつづける河合。「あと5つ数えるまで待ってもらっていいですか?」本来ならば許せないであろうこんな女々しい願い事も頷いて聞き入れてやる歳三。覚悟の出来ていない人間の切腹ほど残酷なものはない。山南の時より可哀想でならなかった。 それでも腹を切った河合。谷はこともあろうに介錯に失敗したが、すぐさま総司が哀れな河合を楽にしてあげた。
間もなく飛脚がやって来た。シャンシャンシャン…飛脚のその鈴の音が、観柳斎を墓場へ送る死神の笑い声のように聞えた。
□38話の総司□ 市中見廻り中不貞浪士を斬り倒した途端、総司の表情から咳き込むのではないかと思ったら、案の定咳き込み喀血…。医者に診てもらう総司。どうして自分の言うことが聞けないのかと、濡れた手拭でビシビシと病の総司を叩く医者…。気持ちはわかるけど…そう叩かなくても…。 「5年でいいんです。後5年生きられればそれでいい…。ねぇできるでしょう?」と無理なことを哀願する総司に呆れたが、それ以上に不憫だった。 「そんなこと言っても無理っ!」と医者は墨のついた筆を総司の鼻の頭にチョン…。哀願する総司の真面目な顔と、その鼻の上の何とも滑稽に見える墨と…。本来ならばとても胸が詰まってしまいそうな場面なのだが、三谷さんはこんな時も湿っぽくしすぎず、少しの笑いを残す…。
さて河合の件で藤堂が総司にも協力を求めるが「力になれないな。河合もバカなことをしたもんだ。自分の命を粗末にする奴には同情したくない。」と総司らしくない言葉を発する。 イライラしているのだろう。不条理がくやしいのだろう。どんな人間だって自らの寿命がもうそこまで来ていると知ったら心が荒む。どこにこの自分の気持ちを持っていったらいいのかわからないのだろう…。そんな想いがこんな言葉を総司に言わせたのだと思う。またある意味新選組の隊士の中で、総司が一番命の重さを知っているのだ。
介錯が上手くいかなかったため苦しむ河合を斎藤を差し置いて厳しい顔でとどめを刺した総司。 やさしさからだったのか…。それとも無駄に命を縮めた河合に対する腹立だしさからだったのか…。私は総司の優しさからだと思いたい。
***第38話の私のつぼ(藤原総司限定)*** ・医者に叩かれ、身を縮めるような格好をする総司。鼻に墨を付けられたまま医者に悪態をつき外に飛び出す総司…。 ・切腹の場面。他の隊士達は河合を見つめ表情を動かしていたが、1人だけ河合を見ず、無表情で座っている総司の冷たく美しい横顔。
●第39話「将軍、死す」
谷三十郎は弟の万太郎と周平を新選組脱走に誘う。新選組に見切りをつけたと言っているが、河合の介錯のしくじりによって腕の悪さが露呈し、本当は自分がかっこ悪いだけだろう。しかし勇に恩を感じている周平だけはそれを断った。脱走の途中、三十郎は斎藤に見つかる。往生際悪く槍を抜いて構える三十郎に「武士として誇りある死を選べ。」と斎藤は自害をほのめかすが、弟の周平が勇の養子になったことでその虎の威を借りでかい態度をとり、そしてそれが利かなくなった途端今度は尻尾を巻いて逃げる…そんな人間に“誇りある死”など土台無理なのだ。あっけなく三十郎は斎藤に斬り倒されてしまった。
三十郎の一件が片付いた矢先、今度は監察方の浅野が姑息なやり方で周平を脱走に引きずり込む。しかし偶然その現場を目撃したお幸の機転でこの周平の脱走は未遂に終わる。 しかし井上や藤堂、総司などにその事実を知られ、最後には勇にも知られてしまう。身内でも例外はないと、勇は周平を処分しようとするが、井上がそれを止めた。以前から井上は周平を可愛がっていたように思える。長い間実直に稽古に励んだが、剣の腕は歳三や総司の方が兄弟子の自分より立つ。そんな自分の現実の姿が周平と重なったのであろうか…。井上のおかげで周平は命拾いしたが近藤家との養子縁組は解消された。 ところでこの脱走事件の張本人である浅野は、脱走の途中で斎藤に見つかってしまうが、斎藤はそのまま浅野を逃がしてやった。どうして斎藤は浅野を切り捨てなかったのか…?人間的なセコさは三十郎も浅野も同じにように思えるのだが。どうも斎藤というのはよくわからない人間である…。
隊士脱走の他にも伊東が岩倉に陰でこっそり接見したりと、内部の人間達から見切りをつけられ始める新選組に将軍・家茂死去の知らせが入る。次の将軍・慶喜は…こんな腹黒い奴だったのか…。
□39話の総司□ 何故か大逆転で原田がまさと結婚した。隊士達が嬉しそうに祝いを述べる中、総司も「諦めなくてよかったね。」と総司らしい祝いの言葉を原田に贈るが、何となく寂しそうな笑顔と力のない声色である。祝宴の話し合いをしている時も途中でスッと席をはずしてしまう総司。そんなに強くないようだ。 その後の稽古も隊士達に厳しく稽古をつけていると言うよりは、何だが苛立ちをあてつけているという感じだ。もし私の友人でも家族でも、余命いくばくもない人間が側にいて総司のように荒れていたら…私は恐らくそのまま気の済むまで暴れさせておくと思う。他に何が出来ようか…?自分の寿命を知らされて、それじゃぁ残り少ない日々を悔いなく過ごそう!などと、すぐ次の日に決意出来る人間が一体この世に何人いるだろうか…?“死”こそ全ての人間が平等の与えられた事実であるし、人間の将来でこれほど確実なものはないわけであるが、それでもやはり死ぬことは恐いことなのだ。無念という気持ちもあるが、それ以上にまず恐いと思うのだ。だから人の幸せを心から喜んでいる余裕もないし、嫉妬もあるだろうし、どうしようもなく荒れてしまうだろうし…。しかしいつかはそんな生活にも疲れてくる。子供が泣きつかれていつかは泣き止むように、荒んでいる自分にも疲れてくると思うのだ。
脱走を見つかった周平に対しても総司は厳しい。「隙があるから付け込まれるんだ」「頑張っているのなら、もっと腕が上がるはずだ」「何故全力を尽くさない、精一杯生きようとしない」と弾丸のようにキツイ言葉を浴びせながら何度も周平を殴る…。いつぞやの我を忘れ総司を殴る芹沢の姿を彷彿させた…。労咳にさえなっていなかったら、絶対に総司はこんなことをしなかったであろう。 見かねて藤堂が止めに入った。「あなたみたいな人ばかりではない。どんなに頑張っても出来ない人間もいるんです。」私は藤堂の言っていることは正しいと思う。しかし気持ちが焦っている総司にこの言葉は通じたのだろうか…?
これから総司はどう変わっていくのか。心が荒んだまま死を迎える人間は少ないように思える。死の現実を受け入れ、それでも再び立ち上がることが出来る…これも人間の姿だと思いたいのだ。
***第39話の私のつぼ*** ・浅野を追いかけ京の街を走る総司。「何で浅野を逃がしたんですか?」斎藤に囁いた低い声。 ・周平とのシーン。久しぶりにあんなに青筋を立てて演じている厳しい表情の竜也くんを見たような気がする…。 ・祝!今井さん登場!
|