月に舞う桜

前日目次翌日


2006年02月01日(水) 浦沢直樹病と脆弱な都市と

一日中、雨だった。
ぽつぽつでもザーザーでもなく、しとしと降り続く雨。部屋の中も窓の外も梅雨のような色合いで、ちょっと物悲しい。

昼間、テレビで『旅情』をやっていた。タイトルを見た瞬間に、「『MONSTER』でニナが銃を習おうと思った元殺し屋が見て泣いてた映画じゃん!」と思った。
映画をしばらく見るともなしに見ていると、「『失われた時を求めて』みたいね」というセリフが耳に入った。そこで私は「プルートゥだっけ? 違うなぁ、それは浦沢直樹だし……」と思って、プルーストという名前がなかなか出てこなかった。
完全に浦沢直樹に毒されている。苦笑しつつも、嬉しい。

夜は、関東地方で地震があった。私が住んでいるところは震度3だったようだけど、横浜市内でも他の区では震度4だったらしい。
ガラスがはめ込まれたリビングの戸はガタガタと音を立てて怖さを増すし、物が落ちないかという心配もある。でも、「自分の家が崩れるのではないか」という不安は少しも頭をかすめない、私にとってはその程度の揺れだった。
揺れが完全に収まって気持ちも落ち着いたとき、あの人たちには一番大切な想像力というものが完全に欠如しているんだな、と改めて実感した。この国に住んでいれば、自分たちだって地震の怖さを感じたことがないはずはない。そのとき、「自分の住んでいるこのマンションが崩れるかもしれない」という恐怖まで味わわなければならないとしたら……などということは、これっぽちも考えなかったのだろうか。考えなかったんだろうね。
東京や横浜では、安全点検のために運行をストップした鉄道がいくつもあった。地震があったのは確か夜の8時半頃だ。ある路線が運転を再開したのは、結局12時近くのことだったらしい。
私は都会が好きだ。でも、都会はあまりにも脆弱だと思う。そこに住む私たちも。便利で高性能でスタイリッシュなところがすきなのだけど、そういうふうになればなるほど脆くなっていく。精密機械みたいだ。都会に住んでいると、自然の変動に対処したり抵抗したり逆らわずに身を任せたりする人間としての野性的な強さが、失われていくのだろう。だからと言って田舎に住む気はないので、都会が追い求めるべき逞しさを身につけるしかない。


桜井弓月 |TwitterFacebook


My追加

© 2005 Sakurai Yuzuki