満員電車の中であっちこっちと揉まれていたところ たまたま前に座っていた人が降りたので、運良くその空いたスペースに座ることができた。
僕がやっとの思いで座った席の前に、バアさんらしき人が立った。 本を読もうとしていた僕は、バアさんの容姿を見て席を譲ろうかと思い バアさんに声をかけようと顔を覗き見ると そこには、しっかりとメイクを施されていた。 その他にも、髪の色は明るい茶色。 爪はピンクで、キラキラ光るビーズが付いていた。 おまけに、ダイヤが散りばめられていた時計に ネックレスとイヤリングはパールだ。 肩から提げているバックはシャネルのバックじゃないですか。 外見からその人の年齢を判断すると70歳くらいに見える。
しかし、どこからどう見ても一般的なバアさんの カテゴリーに入らないのは一目瞭然だ。
このように自分の服装やアクセサリーなどに気配りをしているということは 明らかに「若作り」に違いない。 「バアさんとは絶対に見られるものですか〜〜」 「アタシはバアさんなんかじゃない、まだまだ若いのよ〜」 などという猛烈なアピールだ。
そんな人に対して「どうぞ、お座りください」などと席を譲る行為をするのは その人のプライドを傷つけ、若作りへの努力を無にしまうのではないか。
僕の目には、どう見てもオバさんだ。 しかし、本人はバアさんの意識を持ち合わせていないのではないのか。 体力のことを気遣ってあげるのなら、ここは席を譲るべきである。 だが、自尊心を優先させるなら、ここは絶対に席を譲らない方がいい。
そう、考えた僕は・・・苦渋の決断を余儀なくされた そして決断した。
「席を譲らない」
その方がこの人の思惑通りに進むはずなのだ。 さりげない気配りこそが、善意というものだ。
バアサンの深層心理にまで探求した僕は堂々と 本を読み続けようと再び本を開いた。
すると、ボクの隣に座っていた女子高生が 「おばぁ〜ちゃん。よかったらどうぞ」と言ってしまった。 あっちゃ〜〜言っちゃったよ。この女子高生。まだまだ若いねぇ〜。 人の真理をまったく読みきれていないよ。
自分の思いとは裏腹に席を譲られたバアさんは 「まっ、失礼しちゃうわ、アタシはバアさんなんかじゃありません。」 と、烈火のごとく怒鳴り散らすに違いない。
そしたら、すかさずカッコよく 『まぁまぁ、悪気があって言ったのではないので許してあげてください』 と、カットインして助け舟でも出してあげよう。 なんて優しいんだ僕は。そう思って準備していた。
するとどうだろう、このバアさん 「あらら、どうもすみません。この年になると足腰が痛くてねぇ〜」 などと、ほざきやがったのだ。
「この年になると・・・」ってどの年だよ。 この年なら、それなりの年齢を感じさせる格好をしろよ。 明らかに若作りしてんじゃねぇ〜か、まず服装からして紛らわしいんだよ〜。
おかげで僕はバアさんに席を譲らなかった男として認知され 周囲の人々から白い目で見られているじゃないかぁ〜〜
どうしてくれるんだよ、この気まずい状況を・・・・。
『席を譲られたら、失礼に当たると思って譲らなかったんです 決して自分がただ疲れていたから、譲りたくなかったわけではありません』 と、その場で弁解したかった。 けど、もう現状を打破する術は残されていない。
そんな気まずい冷たい視線を浴びている中 しばらくすると、僕の前に一人の女性が立った。 その女性は単なる肥満体型なのか、それとも妊婦なのか 微妙な体型の人だった。
席を譲るべきか・・・。 席を譲らないべきか・・・・・。
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