柊小説

2006年02月08日(水) アカイヌlクモリ  ―――�機檻院宗宗�

親父から衝撃的な話を聞かされたのは一九九四年の六月上旬、僕が中学一年の時だった。
確かその日は土曜日で既に深夜一時を回っていた。僕は一人部室でテレビを見ていて、ブラウン管の中では司会者の男女数人の後ろに水着を着た若手グラビアアイドルが十五人ほど座り、自分の顔がアップになるとここぞとばかりにわざとらしい笑顔を振り撒いていた。
トーク番組と題されていたけど内容は全くないに等しく、ただくだらないとしか言いようのない番組だった──が、この手の番組は土曜の深夜には持ってこいの企画なのだろう。
 僕がボケーッとうつ伏せになりながらチャンネルを回していると、
「シド、ちょっといいか?」
突然親父がノックもせずに僕の部屋の扉を開けた。
「何だよ、急に」
僕は怪訝そうな顔をして上目遣いで親父を見た。親父は口を噤みながら頷いた。
「大事な話がある。ちょっとリビングに来てくれ」
わけ有り気な表情だった。それに、どことなく落ちつかない様子だったし――。僕は渋々といった感じで起き上がり、リビングに向かう親父の後を歩いた。
 親父は僕が物心ついた頃から万年短髪で、ハードジェルは毎日欠かしたことがない。おまけに左耳軟骨に開いているむっつの穴からピアスが外れている時も見たことがない。
 この日の夜は確か肌寒かったような気がしたけど、親父はノースリーブにジーンズという寒々しい姿だった。大事な話といってもすぐに終わるだろう、と僕は部屋の電気もテレビもつけっぱなしで出てきてしまった。
 リビングに足を入れた途端、蛍光灯の光によって真っ白な壁が銀世界のように眩しく感じて、僕は慣れるまでしばらく目を細めていた。そして、そこには母親とみっつ年上の姉、カオリの姿はなく、テレビも消されていて人気の失せた体育館のように静まり返っていた。親父は相変らず落ち着かない様子で立ったまま煙草に火をつけると、まあ……座れよ、と壁際のソファーを顎で指した。けど僕はソファーには座らずにソファーを背凭れにして床に腰を下ろした。しばらくして親父も煙草を消し、僕と向かい合うように床に座った。
 そして妙な沈黙が数分流れた後、親父は立ち上がり壁際のクローゼットからベージュの紙袋を取り出し僕に手渡した。
「これ、お前にやる」
突然渡された親父からのプレゼントに戸惑いながらも、僕は紙袋の中身を手探りで出した。
中に入っていたのは、レコード一枚にプリントTシャツ二枚、それと道徳の教科書くらいの厚みで、いかにも手作りっぽい本が入っていた。本のジャッケットには、【History Of The UK 1977】、と書かれていた。
僕はこのレコード、Tシャツ、本とはこの時が初めての対面だった。十年以上も住んでいて一度も見たことがなかった。不思議に思いながら僕がそれらを手にとって見ていると、
「シドが大人になったら話そうと思ってたことがあるんだ。まあ、大人っていっても二十歳になってからじゃちょっと遅いから、いろいろ考えて変声期、まあ声だけでも大人になったら話そうって決めてたんだ。でもお前、小学校出るまでサルみてえに声高かったのに中学入ってすぐ変わっただろ、だから気持ちの整理が着かないうちに日が延びちゃって。ごめんな。とりあえずこれから話すから」
僕は親父の目を見て黙って頷いた。
「まずは俺のことから少し話すけど、今まで話したこと――ないよな?」
何故かドキドキしていた。ないよ、という言葉すら喉でとどまってしまい、ただ頷くのが精一杯だった。親父も緊張していたようで大きな溜息を二度吐き、それからようやく口を開いた。
「実は俺、高二で中退して家を出てさ、それからもう十七年か、一度も帰ってないんだ。丁度今のお前くらいの時からだと思う、悪いことばっかりして、警察によく世話んなって、その度に親に半殺しにされてた。でもそのうち見放されちゃってな、高校は入れてもらったものの辞めて、居場所がなくなって、家を出たんだ。それでもしばらくは仲間の家を転々としてた。でもよ、辞めたんだったらそれなりに何かをしなくちゃ辞めた意味がねえだろ。で、そこで考えたのが、外へ出ることだった。目的はともかくとして自分の目で──肌で国外を感じておく必要があるんじゃないかって、そう思った。それで迷った末にイギリスへ行くことに決めた。もちろん独りで……。行きたい理由なんて特になかったけど……まあ強いて言うならあのビートルズを生んだ国ってことと、王室の魅力ってやつか……」
 両祖父母の家はとても遠く離れているからなかなか行く機会がない、と親父からも母親からも幼い頃からそう聞かされていた。だから、祖父母に会うことができなくてもそれが当たり前のようになっていたせいか、寂しいとも感じなかった。それでも仲間との会話の中で祖父母の話題が出てくると、その度にとり残されている気分になった。
 「──で、七七年の十一月中旬頃か、イギリスに飛んだ。半年くらいだったな……」
僕がそれまで持っていた親父のイメージが一変した。確かに頭は悪かった。勉強も教わった記憶がない。けど十七歳にして独り海外に行ってしまう親父に尊敬の目を持ってしまっていた。これから親父をそういう目で見ていくのだろうか、と思うと少し照れ臭かった。
「でも向こうについてしばらく動けなかった。一応いろいろ調べたり、ガイドブックみたいなものは持ってったけど道はわからねえ、言葉は通じねえ、そいで周り見渡しても日本人なんか一人もいねえ。でも俺は、その半年っていう滞在期間でメチャメチャ価値のあるものを持って帰ってきた。それは短くも独り海外で過ごしたっていう経験と、今お前が手に持ってるレコードとTシャツだ」
僕は手にしているそれと��History Of The UK 1977�瓩鮨読磴隆蕕噺鮓澆妨�比べ、写真でも見たことのない当時十七歳だった親父の顔を思い描いた。
「シド、お前セックスピストルズって知ってるか?」
親父の問いかけに僕は一瞬、いかがわしいビデオのタイトルかと思い込み素早く首を横に振った。もちろんセックスピストルズも知らなかった。
「今、変なこと考えてただろ」
──ばれてた。親父はクスクスと笑いながら僕を見ていた。
「そんなことどーでもいいから早く続き話せよ!」
僕は荒っぽい口調で親父を促した。親父は、はいはい、という感じで続けた。
「セックスピストルズはイギリスから生まれたバンドで、パンクロックの火づけ役みたいなもんだった。俺が向こうにいた時も国中このバンドのスキャンダルで話題は持ちきりだった。デモとか暴動がいろんなとこで起こってたし。そのレコードはセックスピストルズが出した最初で最後のオリジナルアルバムで、Tシャツはメンバーが着ていた�爛札妊�ショナリーズ�瓩辰討いΕ屮薀鵐鼻�たしかチェルシーのキングスロードって通りに店があった気がする。まあ、詳しいことはその本に書いてあるから後で読んでくれ。それからもうひとつ、セックスピストルズのメンバーの中でルックスから全て、一際目立つ奴がいた。そいつはベーシストで、名前は�爛轡鼻Ε凜�シャス�瓩修Α△�前の名前はそいつからとったんだ」
自分の名前の由来を初めて聞いた瞬間だった。正直、�爛轡畢瓩箸いμ樵阿蝋イ�じゃなかった……。親父は嬉しそうに語ってはいたものの、僕には嬉しくも何ともなかった。
 小学生の頃、その名前が原因でイジメられたこともあった。ほとんどが、おまえ変な名前だな、とか、おまえ日本人じゃねえだろ、というものだった。さすがに日本人じゃねえだろと言われた時は、すごく傷ついた。その度に自分の名前を憎み、名前をつけた親を恨んだ。年齢が上がるごとにそういうイジメはなくなったけど、もっとまともな名前がよかった、そう何度も思っていた。
 僕が当時のことを少し思い出していると、親父は両手を、パンッ、と叩き僕を現実に引き戻した。
「お前がシド・ヴィシャスのことを知って、これからどう思うか俺にはわからないけど、とりあえずお前には何が起きてもビビらないでいつでも大声で笑っていられるような奴──まあ、シド・ヴィシャスみたいになって欲しいと思ったからその名前をつけたんだ」
僕はこの時シド・ヴィシャスのことなんて全く知らなかったけど、それでも親父がどういう気持ちで僕にこの�爛轡畢瓩箸いμ樵阿鯡震召靴燭里�は少しだけ理解できた。僕は俯きながら、そっと親父の気持ちと言葉を心の奥底にしまった。
「それじゃ、俺の話はここまで……。これから話すことは、お前のこれからを変えちゃうかもしれないってぐらい辛くて、信じ難いことだと思うけど事実だからしっかり受け止めて聞いてくれ」
親父の顔が自分の話をしていた時よりも更に硬直し眼光も鋭くなっていた。僕の胸にもしめつけられるような緊張が走った。親父の顔を見てこれから話すことは尋常なことではない、というのが読みとれた。
 背凭れにしていたソファーから体を離し、僕は前屈みになって親父に、話せ、と目で訴えた。親父はそれに答えるように口を尖らせ頷き、話を始めた。
「日本に帰ってきてからしばらくふらふらしてて、何もかもが底を尽きそうだった。それで十八の時に流れ着いたのがここだった。当時は今と違って仕事もいっぱいあって、半分コジキみてえな生活をしていた俺を今の会社は雇ってくれた。電気工事の仕事っていっても知識なんか全くなくって何度も辞めようと思った。それでもな、仕事上でいろんな経験をしていくうちに嫌でも知識はついてきていつの間にか人並みに働けるようになってた。生活は寮があったからそこでしてたんだ。……話が少し過ぎたな。十九の時か、市街の外れに風俗街があるだろ。わかるか?」
「ああ、買い物しながらブラブラしてれば嫌でも目に入るから」
�猊�俗街入口�瓩覆鵑篤押垢燭覺波弔澆燭い覆發里賄�然なかったけど、あってもおかしくないくらい華やかで、また、それなりのいかがわしさを漂わせていた。そして狭苦しい一本道の両端にはそういった店が所狭しと建ち並んでいて、いやらしいほど無数のネオンサインが輝きを放っていた。それと、風俗街に出入りしているのは欲望を背負った奴らばかりではなく、ヤクザ、海外マフィア・密売人、密入国者もうろついていて、警察も不用意に立ち入ることができないという噂をよく聞いた。
「そう……あそこでさ、店の名前はもうすっかり忘れたけど、入って、個室まで案内されてドア開けた瞬間、頭の中が真っ白になったんだ。目に飛び込んできたのは、今まで見たことないってくらい綺麗な女でさ、俺は何を考えたのか、話もしないうちにその女の手を引っ張って店から飛び出したんだ。もちろん店の中は騒然として外に出てからも客引きの奴らが、待てコラァ!とか言いながら追いかけてきて、何度も捕まりそうになったけどどうにか逃げ切って──。走ってる間、女は抵抗してたけど逃げてるうちに俺の足に必死でついて来ようとしてるのがわかった。それから人気のない所まで行ってやっと自分がとんでもないことをしたって気づいたんだけど、もうそこまでしたら後には引けねえだろ?だから一目惚れだって言った。女はびっくりした顔をしてたけど、その後ゲラゲラ腹抱えて笑ってさ、あんた面白いねってずっとそればっか繰り返してた。俺もつられちゃって笑い転げてさ。まあ、それがきっかけでその女とつき合うようになったんだ。その女の名前っていうのはさ……マユミっていうんだ。つまり、お前の母親だ。──あいつは……娼婦だった。食っていくためにテメーの体を売りもんにしてたんだ」
母親の顔が何度も思い浮かんだ。笑顔だった――。この時、僕の中にあった風俗嬢のイメージは�猜兮崕��瓩修譴世韻世辰拭�自分の住んでいる世界とは全く別世界の人間で一生かかわることのない人種だと思っていた。それにしても、まさかよりによってそれが自分の母親だったとは……信じ難かった。
けど、母親が娼婦だったことには心当たりが全くないわけではなかった。たとえば下着のパンツにTシャツ一枚という姿で届け物を配達人の待つ玄関までとりに行こうとしたり、子供といえども僕の友達の前で平然と着替えをしようとしたりする時があった。いずれも家族の誰かに止められたけど、母親は自分の体を誰かに見られるということに対する抵抗意識が普通の人間よりも遥かに少なかった。やっぱり娼婦だったから人に体を見られるのには慣れているのだろうか、と母親の顔を思い浮かべながら思っていた。
「それともうひとつ……」
左右の中指と人差し指で両目瞼を擦るようにして親父は続けた。
「マユミと俺は同じ年だけど、あいつは既にバツイチで二歳になるガキがいた……」
一瞬、頭の中に細い針みたいなものが刺さったような、そんな痛みが走った。嫌な予感がした。この空気の中で次に親父の口から放たれる言葉は……そうに決まってる――!
僕はこの時、突きつけられそうになっている現実に耐えられなくなり親父の目から視線を外し、その場から立ち去ろうとした。けど体が言うことを聞かず、立ち上がることができなかった。親父は忙(せわ)しない僕の行動に気づいたのか、静かに深呼吸をして僕の恐れていた言葉を吐いた。
「……カオリだ。そのガキっていうのは……カオリなんだ」
予測通りのことを言われたものの、わからなかった──。爪先には氷のような冷たい空気が漂い、脳天には真夏の照りつく太陽にも勝るほどの熱いものが集まって僕を痺れさせた。そして胸のあたりは全速力でタックルされたような衝撃が走った。一生余韻が続くほどの痛みだった。それは紛れもない心の痛みというやつだった。
もう何も考えられなかったし、むしろ考えたくもなかった。気力というものは全てなくなり僕は完全な放心状態になっていた。視界は親父の膝一点を見つめたまま。動かそうとしても気力がないためにびくともしない。その時真っ白な頭の中を過ぎっていたのは、�爛�オリは腹違いの姉�甅猜貎討聾犠�婦�瓩海里佞燭弔世韻世辰拭�そしてリビングに来て親父から話を聞いてしまったことをすごく後悔した。話を聞いてしまった自分がとても惨めで、とても小さくて醜くて──とても腹立たしかった……。
「ショック……だよな」
親父の言葉は僕の耳を簡単に通り抜けていった。つまり、その時の僕には何も届いてなかった。
母親のこともショックだったけど、それ以上にカオリのことの方が数十倍もショックだった。今まで当たり前のようにカオリと生活をし、当たり前のように喧嘩もした。でもそれは姉弟だったからできたこと。生まれた時から積み重ねてきたカオリとの生活は僕の中で、ものすごい爆音と共に崩れていった。怒りというよりは情けなさの方が強かった。そして、裏切られたという気持ちが次第に大きくなっていった。辛い、辛すぎる――。中学一年の僕にはとても耐え難かった。でも、辛いのは僕だけではない。親父も辛そうだった。左の手のひらで額を押さえて何度も溜息のような呼吸をしていた。
 しばらく沈黙が続いた後、親父は額から手のひらを外し最後の力を振り絞るように再び口を開いた。
「マユミは……ガキの頃に母親と離れ離れになって、それからは親父に育てられたらしいんだ。母親の顔は、もう全然覚えてねえって。親父に面倒見てもらってたもののすっげー飲んだくれだったらしくて暴力も絶えなかったって言ってた。それで嫌気がさして中学卒業と同時に家を出て娼婦として働き始めたらしい。それからしばらくして十六の時、自分の客としてついた十四歳年上の客の男に惚れ込んで、身籠って、結婚、十七でカオリを出産した。でも結婚生活はうまくいかなかったらしくて、一年もしないうちに離婚。カオリを一人で育てていくためにまた娼婦に逆戻りしたんだ。それで十九の時に俺と──。これはマユミから聞いたあいつ自身の話」
――あいつ自身の話。親父はそれだけで片づけたけど、僕にとっては初めて聞く母親の話だったし心の準備というやつも当然できていなかった。けどこの時、僕は母親を哀れに思うのと同時にすごく恋しく思った。既に眠りに着いていた母親を揺さぶり起こしてでも抱きしめたかった。どんな時でも明るく振舞っている母親にそんな辛い過去があったなんて気づきもしなかったし考えもしなかった。それまでの数多くの親子喧嘩の際、母親にぶつけた暴言が次々と頭に浮かんで、僕は後悔の溜息を心の中で何度も吐いた。
 二十回くらい吐いた頃か、親父はまだ終わっていない母親の話を続けた。
「それと、俺はカオリがいることをつき合ってしばらく経ってから知ったんだ。思えばそれなりに不自然なこともあった。あいつはつき合ってすぐ店を辞めたんだけど、会うのがいつも夜中だった。あの時は、何でこんな時間にしか会わないんだろうって思ってたけどそんなに深く考えなかった。カオリのことを知って、寝かせてから会ってたんだってわかった。でも初めてカオリのことを聞いた時はビビッたってより正直引いたよ。十七で産んで、すぐ離婚だからな。驚くとかそういう次元じゃねえだろ?それでも俺はマユミが本当に好きだったからカオリの父親になろうと思った。その気持ちがカオリに伝わったんだかわからねえけど、あいつは俺をすぐに父親として受け入れてくれた。初めてパパって言われた時は涙もんだったな。それからマユミと俺の間にお前ができたってわけ。とりあえず、これでお前に話そうとしていたことは全部なんだけど……長話になって悪かったな。でも話せてよかったよ」
辛い話は聞き終わったものの、聞いてしまったことの辛さが二乗も三乗も増していった。そして、放心状態と定まらぬ視線の中、僕は無意識のうちに親父に問いかけていた。
「カオリは……知ってる……のか?」
「ああ……カオリも今のお前くらいの時に。あいつにはマユミが話した」
「で、どうだったんだよ……?」
「泣いてたよ、何日も、何日も……部屋に閉じ籠もったまま。俺もマユミもどうしたらいいかわかんなくて……。でもカオリはわかってくれた。全部呑んでくれた。こっちが戸惑ってる時にあいつから笑いかけてくれたんだ」
カオリの方が僕なんかよりも断然辛かっただろう。�爛轡離岫瓩箸いι秧討楼蕕討凌討如⊆造良秧討魄貪戮箸靴童�た記憶がないのだから──。どうやってその辛さから這い上がったのだろう?僕はカオリの顔を思い浮かべながら同情していた。すると、親父が静かに囁いた。
「シド……」
親父は睨みつけるようにしばらく僕を見つめ言った。
「今話したことを聞いて、ずっと黙っていたことに対して多少なりともムカついたり軽蔑したりしたと思う。お前もすごく傷ついただろうし。でもいいか、そのことで俺に何を言っても構わないけど、マユミとカオリには絶対に振るな。あいつら二人、立場は違っても傷ついてることには変わりはないんだから。それだけは約束してほしい。……理由はともあれ、もしお前が何か言ったことでマユミとカオリが傷つくようなことがあるとしたら、俺はお前を許さないかもしれない……。勝手なことばっかり言ってるけど……」
親父がすごく大きい人間に見えた。さすがはあの母親がついていく男だけのことはあるな、と思った。放心状態の中、深呼吸と視線を変えられる余裕ができていた。ただ、親父の言葉に納得はしたものの、声を出すことも頷くこともできなかったけど……。親父も全て話したことで多少気持ちが軽くなったのか、体を少し後ろに傾けた。


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