柊小説

2006年02月10日(金) アカイヌクモリ  ―――��-1―――

 一九九五年五月二九日 晴れ 三時限目 英語

 教科書で頭を叩かれた衝撃で目が覚めた。
窓際の隣りの席には直射日光をもろに浴びたサクラが僕を睨んでいた。サクラは僕のいた二年A組の中でも最悪な女と謳(うた)われていた奴だった。
 名前を聞いただけでは、男は誰でも存在しないほどのいい女を思い描いてしまう。けどそれは、空想を膨らませすぎた自分を惨めに思う気持ちから猛烈な怒りへと変わっていく。サクラは腹黒いといわれているどんな奴よりも黒く、はちきれんばかりのセーラー服に見るも無残な顔が救いようのなさを強調している奴だった。趣味は授業中にブラの位置を整えることだ。
 僕の机の上には、この月の頭に買ったセックスピストルズが特集されている音楽雑誌が教科書代わりに載っていた。けどその本にはシド・ヴィシャスのことはあまり書かれてなかった。ほとんどがボーカル�爛献腑法次Ε蹈奪肇鶚瓩瞭叛螢ぅ鵐織咼紂爾世辰拭K佑�そのインタビューで知ったことは、シド・ヴィシャスはメンバーからあまり必要とされていなかったことだった。恋人であったナンシー狂いと過剰なドラッグ摂取がメンバーとの溝を深めた、と書いてあった。僕の机の上にはいつもこの雑誌が載っていた。あまり好ましい内容ではなかったけど、授業を潰すにはいい教材だった。
 机に覆い被さっている僕の目を、ジャケットの食ってかかってきそうな目をしているジョニー・ロットンが睨んだ。睨み返そうとしたけど、僕はジョニー・ロットンではなくサクラを睨んだ。
「──イッテーなテメー……。何すんだよ……!」
僕は机に覆い被さったまま脳天を押さえ言った。
「寝息がうるさくて授業に集中できない!あと煙草臭いのも。それにさ、あんたもっとまともな人間になった方がいいんじゃないの?彼女がかわいそうだよ」
「おい、あいつとろくに話もしたことねえくせして、知ったような口叩くな……」
サクラの言葉で気分を悪くした僕は立ち上がり、脱いでいた学蘭に袖を通しボタンを閉めながら、教卓の前にいた学年主任兼英語教科担当、トミナガの前を通り過ぎ、
「休憩」
と告げて教室のドアを開けた。
 トミナガは五十代前半で、白髪頭に整髪料が塗り手繰ってある小柄なジジイだった。また、黒縁メガネと安っぽいスーツ姿がイメージとして定着していた。
教室を出ようとした時、おい、と呼び止めるトミナガの弱々しい声がした。何だよ?と逆立たせた髪を手櫛(ぐし)で掻き上げながら近づくと、
「きょ、今日の昼休みに生徒指導室に来てほしい……。聞きたいことがあるんだ」
とどもりだか震えているのかわからない声で言った。
「俺だけか?」
僕は眉間に縦皺を寄せて訊いた。
「いや……そこで寝ているのも一緒に……」
トミナガの視線の先には、机に覆い被さるように熟睡している仲間のヒロトの姿があった。
 ヒロトは中学生に見られることがまずないというくらい童顔で小柄だった。けどその反面、目つきが鋭く、冷酷、無感情で何を考えているのかわからない、といった雰囲気を漂わせていた。その目で見られただけで、何もしないうちに逃げ出してしまう奴も少なくなかった。限度を知らずに野放しにしておくと何を仕出かすのかわからない危険な奴だ。
 そんなヒロトから僕は視線を外し、トミナガの呼びかけを無視してトイレへ向かった。もちろん、煙とたわむれるためだ。
 教室を出るとすぐ水飲み場があって、その上の窓ガラスからは線路を特急列車が猛スピードで走り去るのが見えた。ただ、速すぎて乗客の姿までは見えなかった。電車が通り過ぎると、線路沿いに密集している民家が姿を見せた。
 僕の通っていた中学校は市街地からはかなり離れた場所に建っていて、周りにはこれといって楽しめるようなスポットがなかった。コンビニ、ファミレス、VHS・CDのレンタルショップがあるのが唯一の救いだ。買い物をするにも市街地まではとてもじゃないけど歩いて行ける距離ではなかった。そのために市街へ出る時は電車に揺られるか、停めてあるバイクを頂戴して行くしかなかった。
 喫煙所のトイレはA組の教室からは端と端、つまり一番離れていた。その間にB、C、D組、それに多目的室というのがある。時々、歩くのが面倒になって一服を我慢して引き返すこともあった。けど、この日は暑かったために日当たりのないトイレで涼めるという考えに後押しされて、トボトボ歩く自分を想像しながら足を踏み出した。
 二、三歩進んでから自分の足音のほかにもうひとつの足音がずれて聞こえてきた。足下を見ていた顔を起こすと、前方には見慣れた男が僕の方へ向かって歩いていた。サジだ。
 サジは誰もが認める校内トップの美男子だった。身長一八〇センチの細身の長身にピンパーマがかかった髪は肩まで伸び綺麗なブラウンに染まっていた。学蘭は細身の体にフィットしたタイトなものを着ていて、フラつきながら歩く癖があり、薬物依存者を思わせた。けど、そんな歩き方をしていてもすれ違いの女の子が当然のように振り返るサジが、僕は羨ましくてしょうがなかった。そして、サジのもうひとつの魅力は喧嘩の強さだった。空手や柔道、格闘関係は一切経験がないものの、道端での喧嘩だけを積み重ねてきたサジは無敵に近いものがあった。多分、市内の中学でこの男の名前を知らない奴はいないだろう。
 入学式の時、僕の前にいたサジは歩き方も座り方も全てにおいて態度がふてぶてしかった。その時の三年は教師が何ひとつ口出しできないほど荒れ狂っていて、恐喝、暴行は日常のことで男子生徒のおよそ八割が暴走族、ギャングチームの構成員だった。殺しは聞かなかったものの、刺傷やバイクによるひき逃げで逮捕され少年院に入っていた奴、または服役中の奴がいる、と聞いたこともあった。女子生徒も半数が売春やキャバクラに出入りしているという話を聞いたり、中には孕(はら)んでいる親不孝者もいた。また、三年が使用するトイレの扉には殴り書きで��WELCOME TO HEMP WORLD�瓩判颪�れていて、実際そのトイレの個室のうちひとつはマリファナ増殖所として使われていた。その為か、トイレの前にはいつも五、六人のナイフや警棒を持った見張り役が立っていた。肝心な教師たちは、三年がしている多くの犯罪に対して見て見ぬ振りをしていた。報復を恐れていたのだ。噂では僕の入学する前、三年の手によって自殺に追い込まれた生徒がいて、その事件も教師たちによって迷宮入りになったという。当然三年の連中がしていることを警察が知ったとしたら逮捕者は後を絶たなかっただろう。でもそれは教師が口を開かなければ起こらないこと。口を開けば報復は間逃れない、というのが教師たちにはわかっていた。だから怯えながら自分の身と学校の名誉を守る為に、三年の起こしている犯罪を外部に洩らそうとはしなかった。
 そんなサジが三年には餌食に映ったのか、新入生退場の時に前列にいた三年のひとりが彼の顔に火のついたジッポライターを投げつけてきた。そして、一瞬怯んだような顔を見せたサジはその後、投げつけた三年にライターを手渡しながら顔に唾を吐きかけた。それを見ていた三年は一斉に立ち上がってヤジを飛ばし今にも飛びかかって来そうだった──が、サジは教師に囲まれて何事もなかったように平然とその場を去った。そして、翌日からはサジを潰そうと毎日のように三年が押し寄せてきたけど、サジは向かってきたどんな相手をも悉(ことごと)く倒していった。
 そんな状況が続いていた九月のある昼休み、僕はサジや他の仲間と教室で机を囲いながら話していると、そこへ三年全体をまとめている学校には滅多に現われることのないセラダという男が歩み寄ってきた。
「ノッポのロンゲってお前のことか?」
 その時初めて見るセラダは、老け顔で背も体も大きく、ふたつ上には全く見えなかった。また、ドラッグのせいで顔は青白く、歯は溶けていて目も喋り方もイッていた。
初めて見るセラダに僕が圧倒されていると、
「だったら何だよ?」
サジは強気な態度で出た。
「俺のお友達……何人も病室のベッドに送っちゃったんだってね。君、悪いけど許さないよ。指とか腕じゃ済まないよ、殺すよ。──タイマンでいいかな?」
口調は不自然なほど優しかったものの、一言で怖かった。すごい威圧感だった。
「あ、やるの?いいよ。場所は?まあ、いいや。とりあえずここを出ようぜ」
サジはセラダに首根っこを掴まれながらも、全く動揺していなかった。けど、教室を出る直前に僕の耳元で微笑を交えながら小さく言った。
「もし、十分以内に戻って来なかったらピンチだと思ってさがしてくれ。──フッ、指と腕も一緒にな、頼んだ」
僕は軽く頷いてサジの背中を見送った。
 ──五分後、サジが心配になった僕は仲間と廊下に出てタイムリミットの残り五分を待つことにした。そして、落ち着かない気持ちでサジと五分が過ぎるのを待っていると、左目の辺りを抑えてフラつきながら歩いて来る男が見えた。──サジ。
彼は僕らの所まで来ると、時間は?と微笑みながら訊いてきた。けど、左目尻からは真っ赤な血が流れていた。
「六、七分……。勝ったのか?それよりどした、それ?」
「メリケンだよ。あのヤロー素手だって言ってたのに、いきなり物騒なもんつけてきやがって……。メリケンの厚み分避け切れなかった。でもまあ、その後は問題なしだ。白目で吐血するまで殴り続けてやった。まだ三階の便所で夢見てるだろうな。とりあえず、大したことなかった。一服する余裕があったよ」
そう言いながらもサジの目尻からは止め処なく鮮血が流れ出ていた。結局、学校が終わっても血は固まらずに、サジは目尻を三針縫った――。
 三年はセラダが堕ちたことで完全にそれまでの勢いを失い、校内でも小さくなって卒業までの中学校生活を送った。また、ヘンプワールドも知らない間に撤去されていた。おまけに、三年と唯一対立していた僕らはその時三年の学年主任をしていたトミナガから�猗爐蕕糧鷙圓鮖澆瓩討�れたことに感謝する�� という言葉までもらった。
 そんなセラダというジャンキーを僅か数分で仕留めてしまったサジを、僕らはいつしかグループのリーダーという目で見るようになった。

 サジは僕の姿に気づいたらしく、ふらついている足元を更にふらつかせながら左目尻の古傷を中指で押さえた。これがサジお決まりの挨拶だ。
「よ!何してんだ?」
鼻と喉の間にコインが詰まっているような声で、ボンバー気味の髪を掻き毟りながら訊いてきた。
「煙草吸いに行こうと思って──。お前は?」
「何かよー、さっき授業中、『昼休みに生徒指導室に行きなさい。トミナガ先生から話があるらしい』って世界史の奴に言われて。昼休み潰されたくねえから直接聞きに行こうと思ってさ、職員室であいつの授業振分け見たら丁度お前のクラスだったから、今から向かおうとしてたんだ」
「え、お前も!?俺もそうだよ。あとヒロトも……」
「――ってことは、あの二人もってことだよな?」
「そうだな。何の話だろ?」
「さあ、わかんねえけど……偶然だな。あれ見ろ、ホモ二人がいるぜ」
サジは突き当たりのトイレの方を見ながらニヤついた。僕も視線をそっちに向けるとそこにはシンジと、大男リョーキがいた。
 シンジとリョーキは幼馴染みで、幼児期の頃からリョーキの親父が会長となって活動している道場で空手をやっていた。二人の実力は地方大会に出場しても名前が知られているほどだった。
 リョーキは顔も体も中学生離れしていてとにかく厳つかった。無表情で笑顔も滅多になく、口数も少ない奴だ。また、�爛螢隋璽�氏には半径五メートル以内に近づいてはいけない�瓠△塙斬Г砲覆辰討發�かしくないくらい、周囲はその威圧感に圧倒され怯えていた。
 シンジはリョーキほど格闘家として体は恵まれていなかったけど、胸や腕は学蘭の上からでもわかるほど鍛え上げられていた。もちろん腹筋は綺麗に割れている。またサジには劣るものの、ルックス面でも多数の女子生徒から好意を持たれていた。そして、彼はグループで唯一の平和主義者だった。優しさからか、喧嘩をする時も相手に全力を出すことはまずなかった。どちらかというと、二、三発殴って自分の実力をわからせた後、相手を開放してしまうような奴だった。それでも、もしシンジが本気でやったら、と考えると恐ろしい気もした。もうひとつ、二人には共通していることがあった。それは学力があることだ。中間、期末、実力、テストというテストでは一六三人いる学年の中で、二人とも常に上位十番以内はキープしていた。ちなみに……僕、サジ、ヒロトは勉強に関しては全くオンチだったためにいつも一五〇からビリを彷徨っている状態だった。
 しばらくして、僕とサジの姿に気づいたシンジは笑顔で軽く頷いた後、リョーキと早足で駆け寄ってきた。
「おう!何やってんだ?二人して」
「お前らこそ二人してトイレで何してたんだよ?ケツの穴、貸し合ってたのか?」
「ふざけんな!俺は男なんかに興味はねーぞ。しかもリョーキのケツなんか……!煙草吸ってたんだよ」
「あっそ」
サジとシンジのやりとりを僕は笑いながら聞いていた。リョーキはいつもと変わらない無表情で窓の外を見ていた。
それより、とサジが口を開いた。
「お前らトミナガに昼休み呼び出されてねえか?俺らとチビも呼ばれてんだけど」
「ああ、呼ばれたよ。でもダルいからすっぽかす。俺もリョーキも行かないつもりだけど……。え、お前ら行くの?」
「昼潰されたくねえし、授業潰すにはいいと思って、これからトミナガのとこに行こうとしてたんだ。こいつのクラスにいるし。な!」
「ああ。で、どうすんだ二人は?俺は自分のクラスだし──」
「わかった。俺たちも行くよ。いいよな、リョーキ?」
リョーキは窓の外を見たまま頷いた。
「それより、ヒロトどした?」
シンジが訊いてきた。僕は、寝っぱなし、と答えた。すかさずサジが口を挿む。
「あいつはガキだから睡眠をいっぱいとらなきゃいけねんだ。よく言うだろ、�狄欧觧劼楼蕕牒瓩辰董0蕕辰討佑┐韻匹福�
シンジは失笑しながら頷いた。
「あ、シドお前煙草吸いに行くんじゃなかったのか?」
サジがそう訊いてきたけど、教室を出て三人と会ったことですっかり忘れていた。
「いいや、後で。ここじゃ落ちつかねえし」
「じゃあ、ちょっと失礼」
サジはそう言うと、壁に凭れながら座り込んで御贔屓のマルボロに火をつけた。
 僕ら五人は校内で殺しをする以外は、何をしても問題にならないという自信というか確信を持っていた。セラダたち三年と対立して結果的に黙らせた僕らを教師たちは避けて歩くほど恐れていたからだ。だから煙草を吸っている現場を見られても何も言われはしなかった。特にサジ、シンジ、リョーキの三人に対しては僕やヒロト以上に避けていた。三人は喧嘩のスペシャリストで、どんな相手でも倒していまうという信頼があった。実際、あの三年の中で幹部と呼ばれていた奴らを倒したのもこの三人だった。そのことを知っていた教師は一年の時同じクラスだった僕ら五人を二年に上がって別のクラスに分けた。サジ<B>、シンジ<C>、リョーキ<D>をどうにか分けようとした教師の考えは筒抜けだった。
 僕が喧嘩の仕方を教わったのもこの三人だ。実戦を踏まえた時は、痣、出血、失神は当たり前のことで、あまりの強さに僕は、三人の中で誰が一番強いのかと、訊いたことがある。
サジは、�牴兇呂燭瀬�ムシャラに道端の喧嘩をしてきただけで武道を極めてない。だから基礎から積み上げてきた二人には絶対に敵わない�瓠△噺世辰討い拭�
シンジは、�爛螢隋璽�とは体が違いすぎる。サジには喧嘩に関して天才的なものがあると思う。まともにやりあったら多分負けるよ�瓠△噺世辰討い董▲螢隋璽�には、�爐笋辰討澆覆韻蠅磴錣�るわけねえだろ�瓠△醗豸世琶屬気譴拭E椶蕕譴討い覽な�だった……。
 「それじゃ、行こうか」
サジは立ち上がり、火のついたままの煙草を水飲み場に投げつけた。そして、ジュッ、という音がした時には教室のドアは開いていた。
「失礼しまーす」
サジに続いて、シンジ、僕、リョーキの順に教室に入った。サジはトミナガに近づくなり、
「話あるんだってな。昼なんてゲロくせーこと言ってねえで今すぐ話せよ」
とトミナガを見下ろしながら言った。教室の空気は一瞬に張り詰めて教科書を捲る音すらたてられないほど静まり返り、教卓から後ろは別世界のようだった。それまで喋っていた奴らも寝たふりや教科書を読んでる振りをし、男子はほとんど正面を向けずにいたけど女子はサジとシンジがいるせいか、強張った顔をしながらもどこか目をキラキラさせていた。あのサクラさえも……。トミナガはサジにそう言われた時点で、額に脂汗を掻いていた。ちなみに�爛殴蹐�せー�瓩魯汽犬慮�癖だ。そして、ビクビクしながらもトミナガは、昼休みだ、と無意味な抵抗をした。そんな様子を眺めていると、シンジが僕の脇腹を軽く叩いてきた。
「おい、ヒロト早く起こしてこいよ」
「ぜってー嫌だ!あいつの寝起きは最悪だ」
僕は声を張り上げた。寝ている時も机を離しておきたいほど、ヒロトの寝起きは最悪だった。給食だから起きろ、と言って揺さぶった時も僕は下腹部にパンチを食らった。シンジは、しょうがねえなー、と言いながらヒロトの席に近づいた。
「おーいヒロト、おい、起きろ……」
ヒロトは微妙に体を動かしながらも、顔を上げるような気配は全くなかった。シンジはもう一度、静かにヒロトを起こし始めた。
「ヒロト、起きてくれ。おい」
「……んだよ、うっせーな……!誰……シンジ?お前何でここにいるんだ……?」
「トミナガが俺ら五人を呼び出したんだ、今じゃねえよ、昼休みに。でも昼潰されたくねえだろ?だから今聞いちまおうって話」
シンジは寝起きのヒロトにわかりやすく説明した。ヒロトはようやく顔を上げて深い吐息を吐いた後、机の中に入っていた数学の教科書をトミナガに投げつけた。
「──ったく面倒くせえなー!何だよテメーは!」
それまでビクビクしながらもサジと言い合っていたトミナガは、ヒロトの怒声によって完全に血の気が引いてしまったらしく真っ青になってしまった。教室中も、一番怒らせてはいけない奴を怒らせてしまった、というこれ以上にない張り詰めた空気に変わった。サジは、ヒロトが席から立ち上がったのを確認すると、
「生徒指導室だろ?」
と行くことが決まっているかのような口調でトミナガに言った。それでも尚トミナガは、昼休みだ、と小声で抵抗した。サジは少し目をギョロつかせてトミナガの髪を掴み突き飛ばした。よろけたトミナガをリョーキは押さえつけながら教室から出て行った。
「あのヤロー、大した話じゃなかったら窒息死させてやる」
ヒロトはそう呟いた。僕らはその言葉に薄ら笑いをしながら生徒指導室へ足を向けた。


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