| 2006年02月11日(土) |
アカイヌクモリ ―――�供檻押宗宗� |
職員室の向かい側に畳でできた小部屋がある。そこが生徒指導室だ。壁に覆われた薄暗い部屋には窓がなく日当たりは当然ない。あるのは出入り口のドアだけだ。主に生徒指導室に入る生徒は、登校拒否などで教室に入ることができない奴や、何か問題を起こした奴が大半だ。 僕ら五人は生徒指導室に入るなりすぐに胡坐(あぐら)をかいて、過去に多くの問題を起こしながらも初めて入ることになったその部屋を物色した。これといって何もなかったけど、強いていうなら卓袱台、座布団があるくらいだ。そして室内は寒気がするほど静まり返っていた。 胡坐をかいている僕らに対してトミナガは、出入口のドアから一番離れた壁際でビクビクしながら立っていた。 「話って何だよ?」 サジの言葉に一瞬ビクッとして、それから微妙に口元を震わせながら言った。 「一週間ま──」 「とりあえず座れよ」 ヒロトがトミナガの言葉を切った。 そして、無言で頷きながらトミナガは座り僕らに目を合わせずに言った。 「一週前……君たち第三高校の生徒と、喧嘩というか、その……争いみたいなことをした憶えは……あ、あるか?」 第三高校とは市内にある男子高校で、属に�爛錺覘瓩噺討个譴討い誅�中が集まるマンモス学校だ。僕はトミナガに言われて、その日から一週前の記憶を頭の中で辿った。 「あー思い出した。あいつらか……」 シンジがそう言うとすぐに、僕も他の三人も、はいはい、と口にした。 それは、トミナガの言う通りこの日から丁度一週前の下校時の時だった。
僕の家は学校から徒歩十分と五人の中では一番近い場所にあった。そのために四人は帰り道、毎日のように僕の部屋で一服したり、一杯やったりしていた。時々、一杯が酒盛りと化してそのまま翌朝まで飲み続け、目覚めた時には六時限目の授業が終わる頃だったこともよくあった。そんな僕らをフライパンで叩き起こすのが母親の役。狙い所はランダムで、運悪く頭をフルスウィングされたのは意外にもリョーキとヒロトだけだった。普段無口な二人もこの時ばかりは声を上げてのた打ち回っていた。それでも、部屋につくまで煙草が我慢できない時は帰り道の通りに面している高いブロック塀で囲われた広い墓場の裏で吸っていた。そこはだだっ広い砂利が敷かれた空き地になっていて、通りからは全く見えなかった。この日もサジの、休憩、の一言で僕らは墓裏で煙草に火をつけた。サジとヒロトは墓に面しているブロック塀を背凭れにして座り込み、僕、シンジ、リョーキは座っている二人を囲むようにして立っていた。 僕らの肺がニコチンたちに満たされ始めた頃、すぐ傍で人の気配を感じた。振り向くと、紺のブレザーを着た高校生らしきタチの悪そうな男三人組が僕らの様子を監視するように立っていた。そんな三人組を僕らは特に気にする素振りも見せずに視線を外し煙を立て続けた。しばらくすると、 「おい、何シカトしてんだよ?」 三人の中の一人、背はリョーキとほぼ同じで、体がひと回りくらい大きい奴が腹から絞り出しているようなドスの利いた声で言ってきた。顔がリョーキよりもゴツかったから、僕は勝手に�爛献Д優薀覘瓩般礁燭靴拭�ちなみにジェネラルとは、映画<続・猿の惑星>に登場する地球を侵略している悪役のボスザルだ。 「つーかテメーらどこだよ?」 ジェネラルに続いてもう一人のニキビ面の奴が威勢よく身を乗り出してきた。 「失礼な奴らだな。お前らから名乗れば?」 口から出る煙でリングをつくりながらサジが言った。何だこのヤロー!とニキビが大声を上げて怒鳴っていると、 「俺たちは……三高の二年だ」 ジェネラルとニキビの前にいた自分のことを�爛蹈き瓩般松茲訃�柄な男が落ちついた様子で静かに言った。それから、そっちは?と手のひらを僕らに向けて紹介を促した。 ロイは、顔は幼く体も小さかったけど、ものすごいオーラに包まれていた。怖いというよりは誰も知らない世界で生きているような、人を殺しても何も感じないような奴に見えた。また、右瞼にクッキリと斬りつけられたような傷痕が怖さを強調させていた。 「俺たちはすぐそこの中学の二年坊。俺はサジ」 ガキが煙草なんか吸いやがって、とニキビが舌打ちを交えて言ったけどロイはニキビを尻目に僕らに近づきながら言った。 「老けた中坊だな。タメかと思ったぜ。──あ、お前は違うぜ。幼稚園児か?」 ロイはヒロトを指さしながらそう言った。ヒロトは目もくれずに煙草を吸い続けた。 「こいつにあんまり絡むな、危ねえから。それにお前だって高二には見えねえぞ」 サジは、ロイと後ろの二人を見比べながら言った。 「──そうか、まあ、よく言われるけど。それより……今からここで一服したいんだ。俺たちはそのためにここへ来た。だから消えてくれ。それに、ここは前から俺たちが使っていた場所なんだ。島を汚されたくない」 「拒否したら?」 ヒロトが口を挟む。 「それなりのことはする……」 ロイがそう言うと、ジェネラルとニキビも近づいてきた。ニキビは気が短いのか、荒い口調で今にも食いかかる勢いだった。 「俺たちには三年もビビって頭が上がんねんだよ!そいでこのロイさんは二年をまとめてる人なんだぜ。要は三高のヘッド!もう少しまともな態度とれよコラァ!」 「それって、ただお前らの学校の三年が腰のヒン曲がったジジイの集まりだからじゃねえのか?」 サジの言った言葉は僕ら四人を爆笑させたが、ロイを始め三人は、それまでの空気とは違ったものになっていた。キレかけているのがわかった。 「お前……サジだっけ?年上に対する�猯薺鍬瓩辰童斥奸�知ってるか?」 ロイはキレかけながらも冷静さを保とうとしていた。それでもサジは煽り立てるように、 「レイギ?ああ、もちろん知ってるぜ。漢字書けねえけど」 ロイが呆れた様子で溜息を吐いた途端、ジェネラルがしゃがみ込んでいるサジの胸倉を掴んだ。 「テメーいい加減にしろよ!だいたいな──」 「お前らは口喧嘩しに来たのかよ?人の嗜(たしな)み邪魔しやがって……!」 ジェネラルに胸倉を掴まれたことで、サジの目の色が変わり早口になった。そして、立ち上がりジェネラルの胸倉を掴み返した。──キレている証拠だった。サジが早口になってからただで済んだ奴はいない。そして、ジェネラルの胸倉を掴んだままサジは続けた。 「どうすんだよ?やるのか、それとも帰るか?俺らはどっちでもいいぜ。五対三でそっちがかなり不利になるけど。もちろんタイマンでもいい」 ククク、と笑いながらロイはジェネラルにサジから手を離せ、というジェスチャーをした。 「中坊に不利とか言われちゃったぜ……。俺たちもナメられたもんだ。いいよ、そっち五人で。ハンデだ。もっとあげてもいいくらいだけどな。──そのかわり、お前は俺とタイマンだ。どうも口だけじゃなさそうだ」 「ロイちゃん、御目が高いね」 「お前死ぬぞ。少し離れるか、ここじゃ狭すぎる。おい、その四人はお前らで好きなようにやれ」 ジェネラルとニキビは頷き、ロイはサジと奥の方へと歩いて行った。僕らはどういうペアにするのかを少し話し合った。ジェネラルとニキビは、好きなように組め、と言い決定を待っていた。 そして、僕はリョーキとジェネラルを、シンジとヒロトはニキビを、という組み方になった。 シンジとヒロトは元の場所よりも少し離れた所でニキビと距離を置いて向かい合っていた。 こっちもそろそろ始めるか、という状態になった時、リョーキが僕の耳元で呟くように言った。 「あのデカイのは俺一人で十分だ。それよりシドはシンジの方に行け。あのニキビ面は初めから喧嘩なんかする気はねえ。目とあの態度でわかる。ただ、あのロイってヤローと仲間でいてえから金魚の糞になってるだけだ。あーゆーヤローは何を忍ばせてるかわからねえ。多分、ポケットには何かが入ってる。だからもし、凶器を振り回して危険だと思ったらお前も手を貸してやれ。いいか、持ってる方の手の肘から手首の間を狙って蹴り上げるんだ。不用意に頭とか腹を狙うんじゃねえぞ。刺されるからな。──シンジもわかってると思うけど、あの二人でもどうにもならなかったらお前も出て行け。それまでは絶対に手を貸すなよ」 リョーキの相手の心と行動を先読みできる能力に感心しながら、わかった、負けんなよ、と言いシンジとヒロトがいる方へ向かった。実際、ニキビには負ける気はしなかったものの、本当に凶器を振り回されたらどうしようかと考えた。いくらシンジがいるからといっても武器を出されて自分がそれを阻止できる自信は正直なかった。 シンジ、ヒロトよりも少し離れた場所で早くもサジはロイに畳み込みのラッシュを浴びせていた。サジよりも二十センチ以上は背の低いロイは、体を九の字に曲げて攻撃から身を守っていたけど、サジは上からガードがかかっていないあらゆる場所を狙って殴り続けていた。第三高校をまとめる男でさえ、サジからすれば赤ん坊のようなものだったのだろう。 シンジとヒロトのいる傍まで行き僕は立ち止まった。そこではシンジがニキビに向かって何か言っていた。耳を傾けると、 「やる気がねえなら今すぐ消えろ。ケガしたくねえだろ?悪いけどお前には負ける気はしない」 シンジはこの時も平和主義者ぶりを発揮していた。ヒロトはシンジのすぐ隣りで座り込み、煙草を吹かしていた。ニキビはシンジの言葉を受け入れたい気持ちと、ロイについていたいという気持ちとで揺れ動いているように僕には見えた。そして血迷ったのか、叫びながら勢いよくシンジに突進した。力を込めた握り拳がシンジの顔面を捉えようとした時、ニキビは一瞬止まって左膝から崩れるようにゆっくり倒れ込んだ。シンジの得意技、右ハイキックがニキビの脳を揺らしたのだ。丁度その時、後ろの方で、ドサッと人が倒れる音がした。振り返ると、立っているリョーキの下でジェネラルが駄々をこねるガキのように鼻を押さえてのた打ち回っていた。鼻からは多量の血が流れているのがわかった。 「シド」 向き直すとシンジがニキビを指さしていた。 「悪いけど、そいつの後ろに回って両腕掴んでくれ」 僕は言われるままに失神しているニキビの腋に手を通して両腕を押さえ込んだ。するとヒロトがニキビのブレザーのうちポケットから何かをとり出した。それは、リョーキが言っていた通り凶器のナイフだった。キャンプ用の小型ナイフだったけど十分に殺すことのできる武器だ。 「ふざけたヤローだ」 ヒロトはそう言うとニキビの胸や腹をかかとで蹴りだした。時々、爪先で蹴ると顔に皺をいっぱいにして、僕らに激痛のほどを訴えていた。そして、爪先で蹴る回数が多くなっていたヒロトに、 「おい!爪先はやめろ。こいつ本当に死んじまうぞ──」 と少し焦りながらシンジは言った。それでもヒロトは薄ら笑いを浮かべながら、殺すんだよ、と蹴り続けた。僕はシンジと目を合わせて抵抗するヒロトを抱え、ニキビから遠ざけた。あのままヒロトを放っておいたらニキビは確実に死に至り、ヒロトは殺人者、僕らはその共犯者になっていただろう。 ヒロトが冷静さをとり戻した頃、サジとリョーキが僕らの元へ歩み寄って来た。サジは興味津々といった感じでリョーキにジェネラルのことを訊いた。 「──体、お前よりよかったけど、どうだった?強かったか?」 「やたらと組みにきたから多分、武道関係はやってると思う。力はあったけど、戦術がない。スキだらけだった。右フック一発だ。そっちは?」 「そうだな〜、体のわりに力はあったかな。でもまあ、俺の相手じゃねえよ。どっちかっていうと、デカい方とやりたかった」 リョーキはジェネラルに少し手こずったらしく、学蘭には目立つシワがついていた。それに比べてサジは、学蘭どころかパーマのかかった髪すら乱れていなかった。 「サジ、こいつやっぱりナイフ隠し持ってたぜ」 シンジは苦しそうに倒れているニキビを顎で指しながら言った。 「そっか、思ってた通りだ。でもこいつ本当にバカだな。喧嘩する気のねえ奴がここまでやられるのも珍しいぜ。しかも仕掛けてきたのはこいつらなのに。こいつをここまでやったのお前?」 「いや、俺は頭に一発だけ。あとはヒロトがアバラの辺りを爪先で……」 「かわいそうだな、弱い奴なのに。まあ、自業自得か」 僕らはロイ率いる三人を片づけた後、倒れ込んで動かない三人を眺めながら邪魔をされた喫煙タイムを仕切り直した。 「あいつらどうすっか?」 心あるシンジの問いかけに、そのうち起きるよ、とサジは平然と返し、三人を寝かせたまま僕らは墓裏を後にした──。
「だから何だよ?」 静まり返った生徒指導室の中でサジの声が響いた。トミナガは珍しく怒りを露にして言った。 「第三高校の生徒はいずれも重傷だったらしい。鼻、肋骨、腕を折っていると向こうの先生から連絡が入って、うちの生徒にやられたと三人の中の一人が言ったそうだ」 「ぜってーニキビだ。それより、肋骨と鼻はわかるけど腕は誰?」 僕は四人の顔を見回しながら訊いた。すると、 「ああ、腕は俺。変な折れ方したから完治するまで時間かかるぜ、あれは」 サジはあっさりと言った。トミナガは、事の発端を説明しろ、と怒鳴り散らした。僕らは、向こうが吹っかけてきたんだ、と主張した。──普通ならばここで終わるはずだった。それでもトミナガは、もっと細かく話せ、とシワとシミだらけの顔を僕らに近づけた。 「何でそんなに突っかかってくるんだよ?」 いつもの弱気とは明らかに違うトミナガに、シンジが怪訝そうな顔をした。 「第三高校とうちは職員同士の交流が深いから、推薦入学者の人数をある程度確保してもらっている。だから、第三高校と何かトラブルがあることだけは避けたいんだ。推薦入学者の数を削られる恐れがある……」 トミナガの言ったことは僕らを呆れさせた。第三高校の推薦枠数を削られるなら行かなければいい──簡単なことだ。僕らはただ、吹っかけられた喧嘩を──、 「吹っかけられた喧嘩を買っただけだ。何の問題がある?推薦なんか俺らの知ったことじゃねえよ」 サジは僕の思っていたことをそのまま言った。サジと僕は互いにこういうことが時々あった。思って言おうとしたしたことをどっちかが先に言うような。全部ではないけど考えていることが似ていた。だからサジとは仲間の中で一番気が合った。そして、スキンシップをとるために、誰よりも互いを貶し合っていた。 「とにかく第三高校の生徒に限らず、今後暴力沙汰の事件は起こさないように」 場を完結させるようにトミナガは卓袱台に両手を添えた。 「あ?それだけ?お前それだけのために昼休み呼ぼうとしてたのか?──チビ、時間は?」 サジは壁かけ時計に一番近いヒロトを見た。 「えーと、そうだな大体、二分二八秒ってとこか」 「二分二八秒か……。二分二八秒──」 �狷麒�二八秒�瓩魴�り返した後、サジは素早くトミナガの胸倉を掴み力任せに立ち上がらせると、そのまま勢いづけて壁に叩きつけた。叩きつけられた衝撃で頭と背中を強打したのか、トミナガは恐怖心の中で顔をしかめた。 「テメー、三分も満たねえくだらねえ話で俺らの昼潰そうとしたのか?シドの教室でお前を連れ出すのに三分以上かかってるぞ。教室に俺ら五人ともいたんだったら、あそこで話した方が全然早かったんじゃねえのか?どうなんだよ」 サジが初めて教師に対して早口になっていた。そして、トミナガの黒縁メガネを平手で叩き飛ばした。メガネは勢いよく端の壁へ飛んでいった。手を出されたことでトミナガの顔は真っ青になり、異常なほどの汗を掻いていた。それを黙って見ていた僕らだったけど、サジ、と落ちつかせるようにシンジが声をかけた。サジは胸倉を掴んでいない左手で、大丈夫だ、と無言で軽く手を上げてそれから言った。 「俺らは売られた喧嘩以外は買わねえし、自分たちからは手も出さねえ。でも、危害が自分たちに加わりそうになった場合は、その相手をとことん痛めつける。殺すつもりでやる。テメーはそれだけ知ってりゃいい。わかったか?」 けどこの時、トミナガの首が縦に振れることはなかった。 「よくそんなことが私に対してできるな……。学年主任なんだぞ、私は──。君たちを手に負えないという理由で、転校させたいと本気で校長に頼めばどうにかなるかもしれないんだぞ……。大体なんだ、お、お前らのそのふざけた学校生活は──?朝から登校してることは滅多にない。おまけに無断早退、授業放棄、校内喫煙。周りをよく見てみろ、そんな生徒がほかにいるか?お前ら五人のお蔭でこの学校のイメージは最悪なんだ……!父兄からだって抗議の電話が絶えない状況で、中にはお前らがいるから学校に行きたくないって言ってる生徒もいるんだぞ。そういうことを聞いて何も思わないのか?更生しようとか考えないのか?」 「別に。学校来たくねえなら来なきゃいいじゃねえか。俺らは何も関係ねえよ。学校で恐喝とか暴行してるわけじゃねえし。まあ、去年はずいぶん救急車が出動してきたけど。学校来たくねえ理由を俺らのせいにされたんじゃ堪ったもんじゃねえな。それに俺ら五人のお蔭でこの学校のイメージは最悪だって?テメー確かセラダを潰した時、感謝するって言ったよな?じゃあそのセラダはどうだったんだよ!あいつらがやってたのは何なんだよ?」 「うぅっ──!」 サジはトミナガの皮でたるんだ細い首を掴み上げるようにしめていた。今度はシンジさえも止めようとはしなかった。トミナガのとった威圧的な態度は僕らの中で許される行為ではなかった。それは僕らを更生するために言ったことではなく、全て学校の名誉、イメージ、自らの権限の主張だったからだ。そして、トミナガの顎が徐々に上がって顔が真っ赤になり始めた時、ヒロトが口を開いた。 「転校か……おもしれえじゃねえか好きにしろよ、俺には全く興味がねえ。でもまあ、転校させたとこで何かマイナスになるようなことがあった時は──お前の命は保障しねえ。その前に、転校とか手続き面倒くせえから今すぐここで殺してやろうか、なあ?」 トミナガは腰が抜ける寸前という様子だった。けど、そうなるのも仕方がない。それほどヒロトの言葉には実行性と、くだらない話を聞かされるために起こされたという怒りが込められていた。 そんなトミナガが絶体絶命の状況の中、シンジが唐突に言った。 「おい、前にこの学校の生徒で自殺した奴がいるって噂、聞いたことがあるんだけど……教えてくれねえか?教えてくれるんなら、おとなしく教室に戻るけど」 誰もが聞きたいことだった。噂だけで誰も本当のことを知らなかったからだ。それにサジも続いた。 「あっ、俺もその噂聞いたことがある。そうだな、どうする、言うか?言うんならこの手も離すし、もう何もしねえ」 トミナガは俯き、深刻そうに考え込んでいた。この時点で過去に何かがあったことは明らかだった。 「言ったら……本当に教室に戻るか?」 サジは、しつけえなテメー、と言いながらトミナガを卓袱台の前に押しつけ座らせた。トミナガは、数回長い瞬きをした後、腹を決めたように話し始めた。 「君たちが入学してくる前の年のことだ。今の三年生がおとなしく皆真面目なのも、その事件が関係している──」
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