| 2006年02月15日(水) |
アカイヌクモリ ―――�掘檻魁宗宗� |
「……シドにはキスなんて全然重いものじゃないかもしれない。バカみたいで今更無理なことだけど、シドにとっても私が初めての女がよかった。──ごめん、聞き流して」 二人にしかめっ面を演じさせていた夕陽が沈みかけていた。僕とヒトミは抱き合うことも二度目のキスもすることなくただ黙ってひたすら流れていく雲や熱を失っていくアスファルトを見つめていた。 「正直、言っちゃうとね──」 僕の学蘭の袖を引張りながらヒトミが唐突にきり出してきた。 「ユリナさんのことは、私の方が忘れられないんだ。お前には関係ないってシドは思うかもしれない。でもね、心配なの。シドは本当に忘れられてるのかって……綺麗な人だったから。私にはあの人の代役は務まらない──」 「おい、そのくらいにしとけよ」 ヒトミが抱いている不安、ネガティブな考えが彼女を愛しく思っていた僕の気持ちを苛立たせた。 「お前とユリナを俺が比べてるような言い方だな。しかも代役って何だよ?俺はユリナの代わりになってほしくてお前に告白したんじゃないぜ。お前はユリナの分身か?価値観も全く一緒なのかよ?だったらとことん比べてやる」 ──ちょっと言いすぎたかもしれない。今にも泣き出しそうなヒトミを見て冷静さをとり戻しながら静かに続けた。 「もし今、お前とユリナを比べてたとしたら、最初っから告白なんてしねえであいつのケツを追ってたと思う。これだけは間違いねえ。でもヒトミはユリナじゃない。あいつと比べることなんてできねえし、比べようとも思わねえ。だから代役なんてこと、言ってほしくねえよ……」 ──袖を引張っていた手が腕に巻きついてきた。それから彼女は何度も背伸びをした。見下ろす僕を睨みつけ、背伸びをしたままジャンプした。──二度目のキスは時間にしてコンマ三秒。おまけに唇が強く当たりすぎて二人とも口を押さえて苦い顔をしていた。 この日からヒトミは休日を始め、休み時間に下校時と、二人でいる時間は常に手をさし出してきた。時には唇も。──幸せだった。初めて愛というそれまでは触れることができなかったものに触れた気がした。白くて細い指。しばらく握っていると汗がにじみ出てくる彼女の、あの生暖かさを僕の左手は忘れまいと、眠ることなくただ待ち続けている。
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