国道を下りて一般道に乗った直後から、水分のとりすぎで母親の膀胱は破裂寸前だった。 「もっちゃう、もっちゃう!コンビニどこ!?あーほんと漏れるよ!」 さっきまでの緊張はどこにいってしまったのか、僕は徐々に民家や店がなくなっていく風景を母親の自らを急かすBGMに乗せて眺めている。 しばらくすると、コンビニの看板が見えてきた。 「あったー!助かったぁ……」 母親は、勢いよく車を停めると忙しなく、 「待っててね、お昼もついでに買ってきちゃうから」 と言い、赤のピーコートに身を包んで店に入っていった。 トイレを済ませて昼食を選んでいる母親に視界が当たっていると、車のすぐ外から二人の男の声が聞こえた。 「このアストラあの女のかなー?」 「ほかに停まってないから、多分そうだろ」 「てことは、こいつは彼氏か」 「──おい、あの子……君の彼女?」 サイドガラスを叩きながら男が訊いてきた。男二人は、今風といえる不潔さ満点のヤローだ。 �爐鵑覆錣韻佑┐世蹈丱�!あれは四十近いばあさんだぜ。それに、いくら窓ガラスに軽くスモークかかってたってミイラみてーなこの面に気づかねえテメーらはどうかしてるぜ�� 僕は心の底からあまりにも無能な男たちが哀れましいほどバカに思えた。そして、動きも喋りもしない僕に腹が立ったのか、再び叩きつける手はさっきより力が入っている。 「シカトしてんなこいつ。おい!」 「何してんのよ?」 母親が昼食の入ったビニール袋を手からぶら下げて男たちに近づいた。 「この車、君の?」 「そうだけど……何?」 「……じゃあ、助手席は君の彼?」 「そうよ、いい男でしょ。シド・ヴィシャスっていうの」 「シド・ヴィシャス?誰だそれ。お前知ってるか?」 「知らねえ」 「知らないんだ。残念ね……。知らないんじゃ何もしてあげられないわ。調べて出直しておいで。それじゃあね」 その言葉に男二人が呆然としている隙に、母親は運転席に座ってエンジンをかけた。 「あー!もーちょー気持ち悪い!何であーゆーの最近多いの?あー嫌だ!」 コンビニから出るまでの間、男二人の視線が母親から外れる気配はなかった。 母親は買ったばかりのサンドウィッチを頬張り体を上下に揺らしながら、まるで遠足に行くかのようにはしゃいでいる。 「シノブのお母さんて、どういう顔してんのかな?超ブスだったら笑っちゃうかも。──シノブと似てるのかな?似てたらシドにも似てるってことだよね。んー、それより挨拶──。昨日、寝る前にいろいろ考えたんだけど、ちょっと聞いてて。�狷輿蛙修靴錣韻瓦兇い泙擦鵝�わたくしシノブの妻のマユミでございます�瓩海譴犬磴舛腓辰噺任垢�るか。�牴颪い燭�った、お母さん!�甬泙垢�て通報されちゃうかな……。�爐◆宍廚屬蝓�元気ですか?シノブママの様子を見て──シノブも相変らず元気ですよ�畍紊剖舛�そうだなぁ。あーどうしよ。頭がパンクしそう……。シド、何かいい考えないの?」 ──テメーで考えろっ!
母親は、細く山道のような薄暗い道に入る手前で車を停めて、昨日親父に説明しながら書いてもらった地図をバッグからとり出した。 「うーんそうだなぁ……順調にいけば、あと一時間ちょっとでつくよ。だからもう少し我慢してね。それと、シノブの話ではここから結構道がクネクネしてるらしいから、揺れると思うけど……ね。──あっ、そうだ。ここ車も人の通りもないから、今のうちにとり替えちゃおうか」 母親はそう言うと、助手席のシートを全開に倒して僕のズボンを下ろした。 笑える話だ。五年前まで不良と呼ばれていた�狠豊瓩�、今じゃオムツの世話になっているなんて──。 笑える。でも、本当に情けない……。
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