| 2006年03月02日(木) |
アカイヌクモリ ―――�此檻魁宗� |
三人が訪れた週の最終日、リビングにいた僕に親父は困惑した表情を向けた。 「なあ、見たことねえ奴が、お前に会いたいって来てるんだけど……」 「四人の誰かじゃなくて?」 母親が口を挿んだ。 「いや、四人だったら俺にもわかるから。セイゴっていえばわかるって言われた」 「えー、セイゴなんて聞いたことないよ。カオリ知ってる?」 「何で私が知ってんのよ」 ──知らなくて当然だ。セイゴは一年の初期に僕ら五人とつるみ始め、期間限定商品のように僅か数ヶ月で去っていったのだから──。 中学へ入学してすぐに、サジ、シンジ、リョーキ、ヒロトと交友が深まり徐々に腹を割って話をし始めていた頃、気づくと必ず輪の中に入っている奴がいた。ルックスも普通、特にこれといって光るものもなかったけど、セイゴは五人にはない優しさを持っていた。──どんな優しさだったか、そんなことはもう覚えていないけど、セイゴという男は好奇心をそそらせるようなスパイスが全くない奴だった。争いがありそうな時は勃発する前に必ず逃げて、何でも正当化しようとした。それだけならまだしも、僕らと気の合う話が何もなかった。そんな仲ですらセイゴは僕らと一緒にいたがっていた。僕らも、そこまでしていたいのなら無理に外すことはない、と言って仲間として見ていた──が、サジがセラダを仕留めた直後から、ピタッと話しかけてこないどころか、近づかなくなった。そして、仲間も変えていた。僕らはそんなセイゴを引き止めることはもちろんのこと、責め立てることもしなかった。セイゴは僕らに対する三年の報復が恐くて離れていったのだ。それは仲間の誰もがわかってた。いずれはセイゴの方から離れていくということも──。 そんなセイゴが、一年以上も口を利かなかった僕の所へ何故訪れたのか? �牋豈�友達だったから、なんて理由じゃねえだろうな。もしそうなら虫のいいヤローだ。俺は会いたくもねえ�� この日は、休みだった親父がリビングから部屋へ僕を移動させた。 「同じクラスの奴?せっかく来てくれたんだから、とりあえず会ってやれよ」 そう言って親父が部屋を出た後、セイゴは顔を下に向けて目をキョロキョロさせながら歩み寄り、僕のすぐ隣りで立ち止まった。黒と赤のアーガイル柄のセーターにチノパンという姿で。 「ひ、久ぶり……」 この時点で嫌でも耳に入ってくるセイゴの声に、僕の苛立ちはピークに達していた。そんな僕の気持ちを全く無視して、思い出話をするような口調で語りかけてきた。 「何か……とんでもないことに、なっちゃったな……。一年の二学期以来だよ、シドに話しかけるのも、こんなに傍に寄るのも。──本当は、行くか行かないかすごく迷ってたんだ。それでリョーキと俺、同じクラスじゃん。だからあいつに、俺は行ってもいいのかな?って訊いたんだ。そしたらあいつ、『そんなのテメーの意思で決めろ、俺に振るな』って言われちゃったよ……。俺さ、お前らといると自分も周りから、恐いとかヤバイとかって注目されるんじゃないかって思ってた。だから相手にされなくてもくっついてたんだ。──でもさ、ついていけねえよ……。いつ誰に殺られてもおかしくない状況で、俺は毎日ビクビクしながら学校に行ってた……。おまけに周りの奴からは避けられて、話しかけても偏見の目で見られて……。その時、クラスの奴らだけには見放されたくないって思って──友達を変えた……」 �狒瓩�帰れよ。誰もそんなくだらねえ話、聞きたくねえんだよ�� 立ちすくんでいるセイゴに、今度は気持ちが伝わった。セイゴは扉に顔を向けて溜息をひとつ吐いた。 「ごめんな。こんな話しても何の意味もないよな……。でも俺、今日ここに来てよかった気がする。シドは気分悪いかもしれないけど……。それじゃあ、お大事にな」 何の意味も持たない訪問が終わった。セイゴとは全くといっていいほど思い出がないせいか、奴が帰った後僕の頭に居座ったのは、ちょっと前まで聞いていた声ではなく、リビングから聞こえてくるテレビの音だった。
「お前の友達にしては、珍しく普通の奴だったな」 親父が部屋へ入ってきた。 「お前は──ちょっと飛ばしすぎたかもな。平凡に生きるってことは、本当に難しいんだ。一度外れるとなかなか戻れない。俺もそうだったから……。でもお前の生き方、好きだったぞ。俺が望んでいた──なって欲しかったガキそのものだった。自由気まま、んー……好き勝手っていうのか」 �猜針泙平誉賢瓩箸いΠ嫐�がこの時初めて理解できた気がする。それがどれほど難しいことかも──。あの卒業式前日、トラックの荷台でユリナが言った、�猖淇佑�歩くようなレールの上になんて絶対に乗っちゃだめだよ�瓠△箸いΩ斥奸�あれはそんなに難しいことではなく、考え方を変えたり努力をすればどうにかなることではないのかと僕は思った。──その気持ちは今でも変わることはない。 親父の言葉が痛烈に僕の心に突き刺さったのと同時に、平凡というか、安全な道を選んだセイゴが僕には妬ましく見えた。
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