| 2006年03月03日(金) |
アカイヌクモリ ―――�此檻粥宗� |
ヒロトが訪れたのは、セイゴが戯言をぬかした日からおよそ二週間が経とうとしていた時だった。その間、サジ、リョーキ、シンジは一緒ではなく、単独で顔を出した。サジはあの時の涙が嘘のように喋り通し、リョーキは学校であったことなど必要なことだけを伝えてあとは黙っていた。そして、シンジは相変らず下を向いたまま僕の目を見てくれることはなかった。
この日、カオリは在学している高校の創立記念日で休みだったため、僕の介護を母親に代わって全てやっていた。その母親は、カオリがいることをいいことに二度寝、三度寝という有様だった。 十七時から始まる連続ドラの再放送をカオリと見ていると、玄関から鳴り響く人をバカにしたような間抜けなインターホンが喚きだした。疲労のせいか、重い腰を上げるように玄関に向かってリビングを出たカオリだったけど、ほんの数秒で何故か青白い顔をしながら戻ってきた。 「ヒ、ヒロトくんが……来てる。恐い、睨まれたよ……」 �犲採蕕世福�あいつは元からそういう顔だ�� 「どうしよう……。いいよね、上げても?」 カオリはそう言うと、困惑した表情で再び玄関へ向かった。この直後、ヒロトの人相の悪さに圧倒されてしまったカオリは、母親から再度忠告されていたことを忘れていた。それは、 「シドの訪問に誰か来たら、家に入れる前に必ずあいつを部屋まで移動させるんだよ。シドの前だけでしかできない話もあると思うから」
カオリとヒロトは一緒にリビングに入ってきた。それまでにないパターンだったけど、ヒロトは僕の姿を見ても全く動揺していなかった。また、冷酷という言葉すらをも超えてしまいそうな冷ややかな表情は相変らずだった。そんなヒロトの威圧感から逃れるようにカオリはテーブルに置いてあった私物をそそくさと手にとり、 「ご、ごゆっくり」 と足早に自分の部屋へ向かった。ヒロトは無言で軽く頭を下げたけど、カオリはそんな動作を見る余裕もなかっただろう。
「おい、葬式はまだか?」 �爬;,佞兇韻討鵑里�?テメー……�� そのあまりにも心無いヒロトの第一声に、僕の気持ちは瞬く間に怒りへと変わった。その気持ちを煽るように、ヒロトは煙草に火をつけながらリビングを徘徊し始めた。僕はそんな様子を見ていて不意にヒロトが何を考えているのかを悟ることができた。 �爐海い弔浪兇鮹膣屬世隼廚辰童�てねえ。植物人間っていう目だけだ。学校にいる間中、医学書を積み上げて読んでいるのも、ただ偶然に親しくしていた奴が植物人間になってそれに興味を持っただけだ。何てふざけたヤローだ……!�� しばらくしてヒロトは煙草を消し、徘徊をやめて僕の目の前に立った。そして、二、三分、目を逸らさずに見続けた後、頭、首、点滴がささっている鎖骨付近、それから全身をまるで重病患者を診る医師のように凝視した。 �爐笋辰僂蠅海い弔蓮▲謄瓠爾龍縮K椣未世韻任海海僕茲燭鵑澄�ふざけやがって……!こんなヤローはもう仲間でも何でもねえ�� 、そう思いかけた時、ヒロトは僕の目元に手を当てて視界を遮った。真っ暗になった視界の隅から入ってくる微かな光が、ヒロトの深く食い込んでいる手相を浮き上がらせていた。そして、いつもの無感情な口調で聞きとれないほど小さな声で言った。 「やっと俺より低くなったな、いいことだ。……お前をやった奴は、俺とあいつらでどうにかする。それと──俺は、医学用語も人間の身体の内側がどういう仕組みになってんのかも全然知らねえ。それでも……お前の身体は……俺が治してやる。──根拠も何もねえけど。だからそれまで、何があってもぜってー死ぬんじゃねえぞ」 ヒロトはゆっくり手を放した。僕の目には学蘭の第三、第四ボタンが映っている。 �狄∧�人間�瓩箸い�新しい人種に生まれ変わったような扱いを、僕は僕をとり巻く全ての人間からされてきた気がする。もちろん自分自身もそうだった。そしていつしか�牴椎柔��瓩箸いΔ發里鮨瓦涼罎�ら消し去ってしまった。身体が元通りになる可能性を──。たとえ、それが限りなく無に等しいとしても。ヒロトはそれをいつもと変わらぬ憎たらしい無感情な口調で甦らせてくれた。僕は、ヒロトと絶縁まで考えていた自分に心から嫌気がさした。そして──ヒロトの言った言葉を、僕は一生忘れない。根拠がなくても──ヒロトならきっと何かすごいことをやらかしてくれるに違いない。たとえ身体が元に戻らなくても、誰にもできないようなことを──。 「じゃあな」 ヒロトがいたのは、十分も満たない短い時間だった。それでもこの十分は意識が戻ってから僕に圧しかかった地獄のような苦痛を埋めてくれるには十分すぎるといってよかった。 ヒロトの小さくも大きい背中を、僕は姿が見えなくなった後も追い続けていた──。
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