| 2006年03月12日(日) |
アカイヌクモリ ―――�察檻機宗� |
帰宅すると、カオリが慌ただしい様子で僕と母親を出迎えた。 「どこ行ってたの?帰ったら車ないし、鍵も閉まってたから──」 「話があるんだけど、シノブに帰ってくるようにこれから連絡入れるから。あいつが帰ってくるまで悪いけど話しかけないで」 カオリは戸惑った表情で首を縦に振ってから、僕に怪訝そうな眼差しを送ってきた。そして母親は、 「──シドのことで大事な話があるの。だから早く帰ってきて」 と落ち込みを隠すような声で親父にそう告げると、クシャクシャの顔を隠すようにソファーへ倒れ込んだ。
親父は頭を抱え込んだまま目を強く閉じていた。また、重大な会議から抜け出し直帰してきたせいか、ネクタイはだらしなくほどけていた。カオリは母親の腕にしがみつき、肩を震わせながら泣いた。 「──予感はしていた。そういう話じゃないのかって。実をいうと俺も気にはかけてたんだ。その、体重が減り続けてるっていうことに……」 親父はリビングをうろつきながら言った。そして、腕にしっかりしがみついているカオリの背中を宥めるように軽く叩きながら母親は口を開いた。その口調と表情は、ちょっと前まで僕に抱きつき泣き崩れていたとは思えないほどしっかりしていた。 「とりあえず、シドがこういう状況に立たされたことは事実。これから限られた時間で私たちがこの子に何をしてあげられるか、真剣に考えなくちゃいけないと思うの。でもそれには私たち家族だけじゃなくて、あの四人の考えっていうか、力も必要じゃない?この子の人生はあの子たちなしじゃ成立しないから。だから今からみんなをここに集めて話し合おうと思うんだけど……」 「俺は構わないけど、連絡はつくのか?」 「多分ね」 カオリの腕をゆっくりと解いて母親は受話器をとった。 およそ三十分後、インターホンの音と共に、こんばんはー、という能天気なサジの声がリビングを一周した──。
親父と母親が四人を出迎え軽い挨拶を済ませると、リビングの隣にある客間へ通した。 客間には淡い琥珀色の光を浴びた長方形のダイニングテーブルが陣どるように置かれていて、その周りには七脚の椅子が従うように立っていた。 みんなの顔を見られるようにと、全長およそ二メートルあるテーブルの、幅八十センチ足らずの端にカオリは僕を座らせ、一緒に四人が入ってくるのを待った。なんとか発作のような号泣が治まったカオリだったけど、目は真っ赤で嗚咽の余韻からか時々体を震わせていた。 「──あっカオリさん、こんばんは」 サジを筆頭に、シンジ、ヒロト、リョーキもカオリに頭を下げながら入ってきた。 「……こんばんは、急でごめんね。でも、来てくれてよかった……。ありがとね。あっ、どこでもいいから座って──」 カオリは真っ赤な目を背けながら震えそうな声をなんとか絞り出した。四人はそれぞれ僕に首や肩を二回、ポンポン、と叩く挨拶をしてから椅子に腰を下ろした。 僕の右隣にカオリが座り、左隣は空席になっていた。そして、向かって右側手前からシンジとリョーキが、左からはひとつ空けてヒロトとサジが椅子を埋めた。 カオリはシンジが傍に来たことでそれまで喋ることもままならなかったはずが、何故か笑顔で話しかけていた。 「今までみんな一緒にいたの?」 「──えっ?あ、はい。今日はたまたまみんなでサジの家にいて。そしたらマユミさんから連絡がきて──」 「だからみんな制服なんだ」 「はい。でも、な──」 「マジで悪いなー、急に呼んだりしちゃって」 カオリとシンジの対話は、親父の登場でキャッチボールもろくにできないまましめ括られてしまった。親父は点滴の量を見ながら僕の隣に腰を下ろし、四人の顔を見回しながら言った。 「四人は明日、普通に学校あるんだろ?あんま遅くなりすぎたら──」 「学校のことは気にしないでください。起きられたら行って、無理なら寝てればいいだけのことなんで」 サジが髪を束ねながら続けた。 「……それより、シドのことで話し合うことって──?」 「ああ。マユミが来てからでいいか?今コーヒー淹れてるから。飲めるか、コーヒーは?」 �狢臂翩廚任広瓩隼与佑呂泙个蕕謀�えた。するとサジが突然、隣に座るヒロトの頭を掴みながら絡んだ。 「えっ?ヒロトお前コーヒーなんて飲めねーだろ?無理すんなって。シノブさん、こいつにはココアお願いします、ココア」 「テメー、うるせえぞ……」 ヒロトは鋭い目でサジを睨んだけど、その一声で重苦しく感じていた部屋の空気が少し軽くなった気がした。 「うるさいぞサジ。あんたの声筒抜け」 マグカップの載ったトレンチを持って入ってきた母親は、それをテーブルの上で全員にさし出してから残る空席に腰を下ろした。 「──まず、急な連絡にもかかわらず来てくれて本当にありがとう。正直、四人が揃って集まれるとは思ってなかったから──。それじゃ、早速だけど話を始めるね」 仲間の鋭い視線が母親に注がれた。親父とカオリは、二度もそんな話を聞きたくない、といった感じで俯いた。 「今日の昼だったんだけど、シドと私は主治医のシラギに、重大な話があるって呼び出されたの。珍しいことなんだ。点滴の受け渡しと定期健診の時以外は、こっちから連絡することはあっても、向こうからはほとんどないから──。その時にね、言われたの。──シドの命は二十歳まで持つことは極めて難しいって。原因は、この子の体重が点滴をしているのにもかかわらず、減っていることにあるんだって……。このままいくとシラギの計算上、五年後には二十キロを割っていてシドの身体が耐えきれなくなるらし──」 「そんなのガセじゃないんですか?」 サジが母親の言葉を遮った。 「……サジ、言葉を慎んで。それに、まだ話は終わりじゃないの。最後まで聞いて」 「すいません……」 母親はサジを見て二度頷いてから続けた。 「──シラギは一日でも早く原因解明をして打開策を立てるって。それと、シドの周りの人間、つまり私たちは�犂饑廰瓩辰討いΔ發里鮨�じて祈り続けてくださいって言われたわ。それも大事な治療のひとつだって。──だから、これから限られた時間の中で私たち家族とみんながシドにしてあげられることは何かを、一緒に考えてもらいたくて今日は呼んだんだ」 四人の顔色が変わった──。シンジは目頭を押さえながら歯を食い縛っていた。リョーキは鋭い眼光で正面を見つめ、ヒロトは僕の顔を腕組をしながら瞬きなしで見続けていた。�爐�前の身体は俺が治してやる�瓠△修Ω世辰討い織劵蹈箸砲海陵礁神觜陲呂匹Ρ任辰燭里�。僕は、どうなんだよチビ?と問いかけながら考えていた。そのヒロトの隣でサジは、両手を頭の後ろで組み、天井を見つめたまま金縛りにあっているかのように全く動かなかった。また、僕の隣ではカオリが再び鼻をすすって泣き始めていた。部屋の空気は誰一人として自分の思いをきり出すことができないほど、重苦しいものとなっていた。
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