歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2007年01月16日(火) 現場を見たがらない世代?

先日、ある恩師の先生と話をする機会がありました。この恩師のW先生は僕が高校時代大変お世話になった恩師なのですが、高校卒業以降もお世話になり続け今や20年以上の付き合い。僕が歯医者になってからは僕をかかりつけ歯科医として定期的に歯の治療に訪れてくれる患者さんでもあります。
そんなW先生ですが、話の中で僕はこんなこと尋ねられました。

「そうさんは、僕が電話で歯のことを相談する時、いつもはっきりと答えるということはしないね。」

僕は答えました。

「確かにそのとおりです。それには理由があります。W先生に限ったわけではないのです。時々僕は歯や口の中のことで相談を受けることがあるのですが、自信を持って答えることができないのです。なぜなら、僕自身が相談者の口の中を実際に診ていませんから。
全く相談者の言われることを信用していないというわけではありません。相談者の言われることは診断をする上で非常に大切な情報の一つではあります。けれども、相談者が言われていることと実際の口の中の状態に違いがあることがあるのです。
例えば、下の親知らずが痛いと訴えられていたけれども、実際は上の親知らずが伸びてきて下の親知らず周囲の歯肉を噛んでいたことが原因だったなんてことがあるわけです。このような場合、いくら下の親知らずの治療をしていても症状は治りません。上の親知らずを処置、多くの場合は抜歯ですが、しないと症状は治らないのです。
このような例は結構あるもので、実際に患者さんが感じられる症状と実際の原因とが食い違っているということなのです。電話やインターネットなどでよく医療相談がありますが、僕自身がこの手の相談に消極的なのは自分の目で相談者の口の中を確かめることができないからなのです。相談を受けるからには責任を持って答えないといけない義務があります。ところがそれができないとなると、相談者に対しては一般論しか話すことができません。
W先生からの相談の場合も同様で、実際にお口の中を診ないかぎり、僕は自信をもって、責任をもって相談に答えることができません。先生にはそのことを理解して頂きたいのです。」

このことを説明すると、W先生は大いに頷かれました。

「いやいや、そうさんの言うことは尤もなことだよ。僕はちょっとしたことにもこだわる性格だからちょっと口の中で何か違和感があると直ぐにそうさんに電話してしまうんだけど、いつも実際に見せて欲しいと言われていたからね。そうさんのようにしてもらうと助かるよ。」

この話の流れでW先生は最近感じられたことを話されました。

「全ての30歳代の人というわけではないだろうけど、僕の周囲にいる30歳代の人の多くって共通の特徴があるんだよ。それは、実際に現場を見ないで話をするという特徴なんだね。何か事が起こるとするだろう。僕なんかは事が起こった現場を見たり、関係者に話を聞いたりしながら何が原因か探すことが当然だと思うし、僕自身これまで実践してきたんだよ。ところが、僕が最近接している30歳代の人は、問題が起こって僕が指摘をしても、何も動こうとしないんだよ。
『これは大丈夫なようにできているはずだ』とか『トラブルマニュアルが完備されているから問題ない』とか言い切るんだ。現場に足を運ぼうとする意思すらない態度を示す人が多いんだよね。僕だけの周囲の話かと思って友人、知人に尋ねてみたら、皆異口同音に今の30歳代の人に対して同じような思いを言っているのよ。その結果、事態は好転するどころかむしろややこしくなって、場合によっては解決するのが困難なケースが多くなっているらしい。」

にわかに信じがたい話ですが、考えてみれば思い当たる節もあります。最近の政府の様々な政策などは、現状を全く無視し、特定の業界の意向にだけ沿ったものが数多くあります。その背景には政策立案者が現状を、現場を見ず、知らず、足を運ばず、把握しないまま、自分たちの思い込みだけの都合のよいシミュレーションを元に政策を立案しているとしか思えません。
このような政策立案をしているのは、多分に30歳代の官僚が大きなウェートを占めているのは間違いありません。去年、物議を醸し出した身体障害者自立支援法、今議論になっているホワイトカラーエグゼプションという横文字の残業代廃止法案などは全く現状を、現場を知らない官僚が政策立案しているのではないかと思わざるをえない法案で、机上の空論に過ぎないのではないでしょうか。以前から官僚は社会の現状、現場を知らないというころが言われていますが、今はその傾向がますます強くなってきているかもしれません。

現場を知らずして物事を語る輩が多い世の中。この先、どんな世の中になっていくのでしょうか?想像するだけでも怖いです。


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