2007年01月26日(金) |
目には目を 高齢者には高齢者を |
先週のことでした。昼休みが終わり午後の診療を始めようとした時のことでした。待合室には予約の患者さん以外に高齢の方が一人立っていました。 ”見かけない顔だなあ?”と思いながら受付の方へ行くと、受付さん曰く
「先生、さっきからあの方が先生に話があるとお待ちですが。」
この高齢者の方は、アポなし、すなわち事前に約束せずに僕と会いたいと言っているようなのです。このようなアポなしで来院する方は、急患の患者さんか、業者に決まっています。 僕はぴんと来ました。これは、例の新聞の勧誘だなあと。
先日の地元歯科医師会の新年会で何人もの歯医者の先生が異口同音に言っていたことの一つに、高齢者を営業マンにした高齢者向け新聞の広告勧誘がありました。これは、高齢者向けと称しながら、実際には地元の老人クラブ連合会とは全く関係のない会社が発行している高齢者向けと称している新聞です。それだけならいいのですが、新聞の広告を取るため、わざわざ高齢者を担当者として向かわせるのです。しかも、実際の集金には若手の新聞社の社員を向かわせるというやり方。地元の歯科医師会の先生の中には、高齢者向けの新聞ということ、高齢者自身が広告を取りに来たということから、少しぐらいいいだろうという気持ちで広告料を払うことに同意し、後から若手の集金係りが広告料を取りにきたところで “これはおかしい!”と気が付くのも後の祭りといったところなのです。
ある意味、高齢者の立場を悪用した商売、商売というよりも詐欺にも近い行為だと言えるでしょう。事前にこのことを聞いていた僕は、うちの歯科医院に来られた高齢者営業マンにお引取り願おうか、断ろうと思ったのですが、その時、たまたま親父が診療所にやって来ました。親父は予約していた患者さんが急遽キャンセルになったということで時間に余裕がありました。
“ここは親父に頼もう!“
そう思った僕は高齢者営業マンを親父に断ってもらうことにしたのです。僕の申し出に首を縦に振った親父は直ちにその高齢者営業マンのところへ話をつけに行ってくれました。 その後、受付さんに尋ねたところ、親父は高齢者営業マンが自分より年下だったことから、いろいろと苦労していることを労いながらも、丁重に広告のことは断ったのだそうです。その高齢者営業マンはがっかりとしていたそうですが、親父には深々とお辞儀をしてうちの診療所を後にしたのだとか。
おそらく、この高齢者営業マンは、悠々自適の生活をしたいであろうに、何らかの事情で働かざるをえない状況なのです。実際、仕事を探そうとしても高齢者向けの仕事の求人はなかなか見つからなかった。苦労して見つけた仕事求人に応募し、採用されてみたものの、勧誘というノルマと広告を取った数だけ給料がもらえるような成果システムの中で働かされているのです。既に高齢者でありながら自分より若輩である院長の診療所に足を運び、頭を下げて広告を取る。新入りの営業マンのようなことをさせられているのです。いくら生活のためだとはいえ、70歳以上にもなってこのような営業、勧誘商売をしないといけないとは?
社会の厳しい現実の一端を見せ付けられたような気がした、歯医者そうさんでした。
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