先週末、診療をしていた時のことでした。うちの歯科医院に突然ある方が来院されました。 「先生にお礼を言いたい」 ということで来院されたのは、僕が見ていた患者さんYさんの家族の方でした。Yさんご本人ではなく家族の方が来られたのは一体どうしたことか?診療の合間にお会いすると 「先生、昨日、Yが亡くなりました。」
実は、Yさんは某病院で入院していた患者さんでした。血液に関係する癌を患っており長期療養していたのですが、抗癌剤を使用中、口の中に口内炎が多発していたのです。紹介を受けた僕は坊病院では往診し、口内炎に対する処置をしたのです。それ以来、僕は往診でYさんの口の中を時折診ていました。むし歯の治療や入れ歯の調整など、往診先での治療は普段の歯科医院での治療とは異なり、勝手が違い大変でしたが、何とかYさんが受け入れてもらえる程度に口の中は管理できていたようです。 ただ、主治医の先生からはYさんが癌の末期で余命いくばくもないことは聞いていました。 「残念ながら、Yさんの命はあと1〜2ヶ月というところだと考えています。」
QOLという言葉があります。Quality of Lifeという言葉の略ですが、何らかの病気や障害で療養している人が少しでも快適に過ごすことができるような環境を整えることを指す意味で使われることばです。Yさんの場合も残された人生を、少しでもQOLが達成できるよう、口の中の状態を整える。僕はその目的のために往診をしていたように思います。
実際にはYさんは主治医の余命宣言より半年近く長く生きながらえることができたようですが、残念ながら先週末に鬼籍に入られたとのこと。Yさんのご家族の方曰く 「最期は苦しむことなく、笑顔で静かに逝きました。」
人には誰しも死が訪れるものですが、いろいろな死に方があるものです。中には不本意な死や苦しむように亡くなる方も少なくありません。Yさんの場合、自宅ではありませんでしたが、静かに人生を終えることができたということは、ある意味幸せな息の引き取り方ではなかったのではないでしょうか?このようなことをYさんの家族の方に話しながら、Yさんの冥福を祈った、歯医者そうさんでした。合掌
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