2009年04月02日(木) |
歯を使った栓抜きパフォーマンスについて |
先日、何気なくあるバラエティ番組を見ていると世界の奇人、変人コーナーのような特集がありました。世界にはいろいろなことをする人がいるものだなあと思いながら見ていたのですが、このコーナーの中に自分の歯でビール瓶の栓を抜く人が取り上げられていました。この人はある制限時間内で自分の歯で栓を抜くビール瓶本数の世界記録を持っているとのこと。実際に自分の歯でビール瓶の栓を抜いているパフォーマンスの映像が流されていました。確かに次から次へとビール瓶の栓を歯で抜かれている映像には驚かされましたが、僕は歯医者としてこの方の行く末を案じてしまいました。
結論からいいますと、絶対に良くないことです、自分の歯でビール瓶の栓を抜くことは。誰でも想像がつくとおもいますが、人間の歯はビール瓶の栓を抜くために進化してきたものではありません。食べ物を食べるために進化してきたものです。自ずと歯の解剖学的構造、能力は歯に適合したもののはずです。ビール瓶の栓を抜くという行為は明らかに食べ物を食べることを超えた行為です。
結果としてどのようなことが考えられるでしょう?まず、歯が欠けたり割れたりする可能性があります。ビール瓶の栓は金属製です。ビール瓶の栓で使用される金属は軟らかくありません。実際に歯の表面は、特に目で見える範囲の歯冠と呼ばれる部分はダイヤモンド並の硬さがあります。それ故、少々硬いものを咬んだとしても歯が傷つかないようになっているわけです。ビール瓶の栓を歯で噛んでも歯が割れないのは、歯そのものがビール瓶の栓の金属以上に硬いことが大きく影響しています。 その一方、硬いということは柔軟性に欠けるという欠点があります。硬いものばかり噛んでいるうちにヒビが入り、割れてしまうリスクがあるのです。自分の歯でビール瓶の栓を抜き続けていると歯にヒビが入り、割れてしまうリスクを自ら高めてしまう結果となります。今は問題なくてもビール瓶の栓を抜いているうちにある瞬間に歯が割れてしまうなんてことになりかねないのです。 一度割れてしまった歯は詰め物や被せ歯、差し歯などの人工物で置き換えなければならないのです。歯が助かるならまだいいでしょう。もし歯が真っ二つに根っこの方まで割れてしまえば、最悪の場合抜歯となります。
歯の根っこは顎の骨と直接くっついていません。薄い歯根膜と呼ばれる線維と繋がっています。歯根膜は歯にかかった圧力を適度に緩衝し、分散させることにより顎の骨に直接過大な力がかからないようになっているのです。 自分の歯でビール瓶の栓を抜き続けると、過大な圧力が歯にかかることになります。そうなると、この歯根膜にも過大な力がかかることになります。そうなると歯根膜が傷つき、炎症が生じたり、顎の骨に悪影響を及ぼします。 顎の骨の問題といえば、非常に懸念するのは顎の関節です。自分の歯で栓抜きするのは前歯が多いようですが、前歯に多大な力がかかると、てこの原理から顎の関節にも非常に大きな力が作用します。そうなると顎の関節周囲の筋肉、靭帯、軟骨に力がかかり、損傷してしまう可能性があります。これはまさしく顎関節症の症状なのですが、自分の歯で栓を抜き続ければ歯のみならず顎の関節の健康さえ害するリスクがあるのです。
以上のようなことを考えると、歯医者として僕は自分の歯でビール瓶の栓抜きパフォーマンスを気持ちよく見ることができません。自らの体をはった、非常に危険なパフォーマンスをしているようにしか見えません。愚の骨頂としか思えないパフォーマンス、決してマネをしないようにお願いします。
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