歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2009年04月10日(金) 性別確認しづらい患者

昨夜、地元歯科医師会の会合があり出席してきました。いつものように会合の前に雑談をしていると、ある先生が突然あることを話し出しました。

「うちに来院した患者さんでパッと見た目はきれいな女性だったのですよ。すらりとした体格に春らしいファッションの着こなしをして治療に来られていたんですよ。内心、『うちの歯科医院にもこんな美人が来るようになったんだ』と思っていたんですけど、どこか違和感があったんです。何気なくカルテを見ると、性別欄が“男”だったんですね。後で受付に確認したら、保険証の性別欄が“男性”だったそうなのです。」

「患者さんとのやり取りは問題なかったのですが、話をしていても完全に女性でしたよ。カルテの性別が“男”だっただけに、非常に気を使いましたね。」

実はうちの歯科医院にもこのような患者さんが来院したことがあります。患者さんであればどんな性別であろうとも同じように治療をするわけですが、本音としては、どこか構えてしまう、少し複雑な気持ちにならざるをえませんでした。

世の中には心の性と身体の性が一致しない性同一性障害の方がいます。性同一性障害の方は自分自身が苦しむだけでなく、保険証や選挙権などで不正利用、行使の疑いを掛けられ、不審がられることが多いと聞きます。そのため、強い精神的苦痛を受けることも多いのだとか。

インターネットで調べてみると、性同一性障害に関しては法律があるようです。平成16年7月に施行された性同一性障害の性別の取扱いの特例に関する法律(性同一性障害特例法)です。ここに詳しいことは書かれていますが、性同一性障害の定義は
“生物学的には性別が明らかであるにもかかわらず、心理的にはそれとは別の性別であるとの持続的確信を持ち、かつ、自己を身体的および社会的に他の性別に適合させようとする意思を有する者であって、そのことについて、その診断を有する2人以上の医師の一般に認められる医学的知見に基づき行う診断が一致しているものをいう”
とのこと。
性同一性障害特例法によれば、医学的に性同一性障害と認められ、性別の取扱いの変更の審判を受ければ、戸籍や保険証等の性別の変更が可能とのこと。
ただ、実際に性別の変更の審判を受けるには条件があるようで
・20歳以上であること
・現に婚姻していないこと
・現に未成年の子がいないこと
・生殖腺がないこと、または、生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること
・その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する概観を備えていること
これらの条件が満たされないと法的に性同一性障害と認められないようです。

性同一性障害と思われる患者さんの場合、医療の現場ではどうしても性別を確認せざるをえない状況になります。なぜなら、他人の保険証を不正に使用している可能性が否定できないからです。そのため、患者さんの見た目の性別と保険証との性別の違いを本人に確認せざるをえないところがあるのです。
うちの歯科医院に来院した患者さんや冒頭で話した患者さんも受付で性別確認を取ったそうですが、二人とも気持ちよく事情を話してくれたそうです。ただ、周囲の患者さんには会話内容を聞かれないよう配慮し、慎重に言葉を選びながら性別確認をしたそうですが、それは正しい行動ではなかったかと思います。

性同一性障害についてはまだまだ医学的にわかっていないことが多いようですし、性同一性障害特例法についてもいろいろな議論があるようです。歯科治療においては性同一性障害が治療に与える影響はほとんどないと思いますが、患者さんの心情には一定の配慮が必要であることは言うまでもありません。


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