2009年04月14日(火) |
叱られて覚えることもある |
僕が某歯科大学の学生だった頃の話です。全国の大学歯学部、歯科大学では最終学年である6年では実際に患者さんの治療を行う臨床実習という実習があります。僕も今から約20年前に臨床実習を受けたわけですが、何せ人生で初めて患者さんを目の前にする実習です。常に指導をしてくれる指導教官が付いていたとはいえ、いつも緊張していたものです。臨床実習はほぼ1年間ありましたが、徐々に実習を行っていくうちに少しは慣れてくるものです。実習の要領やパターンがわかってくると、自分なりに工夫をしながら限られた実習時間を過ごすことができるもの。臨床実習までに講義や模型実習で習ったことが実際の臨床に繋がることがわかると、何か得した充実した瞬間を味わうことができました。 その一方で慣れは怖いもので自分では気が付かないうちにミスをしたり、失礼なことをしでかしたりすることがあるものです。
ある日のことでした。僕はある患者さんの被せ歯をセットしようとしていました。事前に患者さんの歯を削り歯型を取る。歯型をもとに模型をつくり被せ歯を作っていました。その被せ歯をセットするために、被せ歯を患者さんの歯に付けたりはずしたりしながら適合具合を確認したり、咬み合わせをチェックしていたのです。 事前に作っていた被せ歯は若干高めでした。僕は被せ歯を患者さんの歯からはずし、口の外で削りながら調整していました。その際、僕は何気なく被せ歯に溜まった削りカスを自分の口から息を吐いて取ろうとしたのです。その時でした。僕の背後から非常に厳しい声が聴こえました。
「おい、一体何をしたんや!そんなことをしたら患者さんに失礼だろう!」
僕を指導をしていた指導教官の声でした。僕は最初なぜ怒られているか理解できませんでした。自分がやっていたことは被せ歯を作る技工室ではいつも行っていたことでしたから。それがダメ!だと言われる理由がわからなかったのです。 しかしながら、時間が経つにつれ、僕は指導教官に怒られた意味を徐々に理解しました。それは、僕が行った行為は患者さんに対し大変失礼な行為だったからです。まもなく患者さんの体の一部になる被せ歯を自分の口の息で吐くことは患者さんに唾をかけることと同じであることと同じ。患者さんのいる診療室では絶対に行ってはいけない行為の一つだったからです。
今から思えばこんな常識的なことがどうしてわからなかったのか、自分で自分を笑うしかないのですが、臨床実習中の僕はまだ何もわかっていなかった輩だったのです。そんな僕を厳しく叱ってくれた指導教官。 正直言って、叱られた時は決して気持ちの良いものではありませんでしたが、あの時のお叱りが無ければ今頃どうなっていただろうと思います。叱られているうちが華とはいいますが、叱られることで覚えることもあるものだなあと思い出した今日この頃です。
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