2009年04月22日(水) |
歯医者の麻酔が効きにくい理由 その1 |
先日、某所へ出向くため電車に乗っていた時でした。僕の隣に座っていた会社員二人組が話をしていたのですが、何気なく聞き耳を立てていると会話が歯科治療のことになっていました。
「この間、歯医者で歯の治療をしたんだけど大変だったよ。」 「歯を抜いたんですか?」 「長い間むし歯を放置していたんだけど、その歯が突然痛くなってね、近くの歯医者に飛び込んだんだよ。歯医者では神経の処置をしないと痛みが取れないというから、神経の処置をしてもらったわけだけど・・・」 「治療中、痛かったんじゃないですか?」 「麻酔がなかなか効かなかったんだよ。歯医者の先生は麻酔の何本もの麻酔の注射をしていたんだけど、聞かなくてね、難儀したよ。俺って麻酔の効きにくい体質なのかもしれないなあ。」
この会社員のような体験をされた方は少なからずあるように思います。僕自身、麻酔が効きにくい患者さんの治療をした経験は何度もあります。どうして麻酔が効きにくいのか?それは体質の問題なのか? 愚考するに、麻酔の薬自身は問題ありません。麻痺させたい部位間近に麻酔の注射を打てば確実に麻酔は功を奏し、麻痺させられるのです。それでは麻酔が効きにくい現実をどう説明すればいいのか?
これには歯医者で用いる麻酔法が大いに関係していると思われます。歯医者で用いる麻酔法は、浸潤麻酔と呼ばれる方法です。浸潤麻酔とは読んで字の如く、麻酔液を浸み込ませながら効かせるということです。 歯は顎の骨に囲まれています。骨という硬い組織で守られているわけです。そのため、麻酔の針を直接歯の根っこ、特に歯の神経が集まる根っこの先付近に刺すことができないのです。そのため、針は根っこの近くの骨に刺さざるをえません。 やむを得ず、麻酔液は目的とする歯の近くの骨に注射するわけですが、注射液は骨を浸透する性質があります。骨の隙間をぬって麻酔液が浸透し、歯に達する。そのことで歯の神経を麻痺させるのです。これが浸潤麻酔です。 そのため、歯医者で用いる麻酔液は他の外科で用いる麻酔液よりも濃度が濃いものとなっています。皮膚が破れたから歯医者の麻酔注射を用いるとなると、濃度が濃すぎるためかえって皮膚にダメージを与えることになり、用いることが困難なくらいです。この事実は医者も知らない方が多いようで、歯医者で用いる麻酔液の濃度を教えた医者は異口同音にびっくりされているくらいです。 骨に麻酔液を流し込み、骨の隙間に麻酔液を浸透させることにより麻酔としての効果が出る事実。このことを考えれば、麻酔が効き難い場合の理由の一つに骨の厚み、密度が影響を与えることは容易に想像つくのではないでしょうか?顎の骨ががっちりした人のような場合、麻酔の注射を打ってもなかなか麻酔液が骨を浸透して目的とする歯に達することができず、結果として麻酔が効き難い状況が生まれるのです。 一般に、下顎の方が上顎よりも麻酔が効き難い理由もここにあります。多くの歯医者が経験していることですが、下顎の歯、中でも奥歯の麻酔を効かせることに苦慮することがあるのですが、これは下顎の骨が麻酔液が浸透しにくい厚みと密度があることが関係している場合が多いのです。
歯医者の麻酔が効き難い場合がある理由はまだあるのですが、続きは明日へ。
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