2009年04月23日(木) |
歯医者の麻酔が効きにくい理由 その2 |
何年も歯医者稼業をしていると経験することですが、痛みや腫れの症状が激しい時、麻酔が効き難いことがあります。これはどうした理由からでしょうか?
実は、歯医者で用いる麻酔注射液の化学的組成は酸性になっています。具体的には塩酸○○、塩酸△△といった形で作られているのです。この酸性の麻酔注射液は、体内に入ると代謝を受け、塩酸部分と麻酔注射液本体の部分と分離します。実際に効くのはもちろん麻酔注射液本体であることは言うまでもありません。
ところで、痛みや脹れといった炎症がある場合、体内の化学的環境はどうなっているかといいますと、酸性なのです。炎症は生物学的、物理学的、化学的刺激によって引き起こされる生理現象です。炎症が起こると体内からは様々な起炎物質と呼ばれる物質が分泌されますが、結果としてこれら物質の影響で体内のpHは低くなります。すなわち炎症が起これば、炎症が生じた部位は酸性になるのです。
それでは、酸性の麻酔注射液を酸性状態の炎症部位に注射すればどうなるでしょう?酸性の麻酔注射液は、注射部位が中性であれば緩衝され、麻酔注射液本体が分離され麻酔効果が表れます。 一方、炎症部位に麻酔注射液を注入した場合、酸性状態の麻酔注射液は緩衝されにくい状態となります。麻酔注射液は酸性の状態が維持されるのです。そうなれば、麻酔注射液本体が分離されにくくなり、麻酔効果が出現しにくくなるのです。 痛みや脹れの状態が酷い場合、麻酔が効き難い理由がここにあります。炎症による化学的な状況により麻酔注射液の機能が発揮しにくくなるのです。
麻酔が効きにくい状況でどうしても麻酔を効かせたい場合どうすればよいか?一例を挙げます。 むし歯がひどく神経の処置をしたいが麻酔が効かない場合、残された手段は、神経に直接針を突っ込み麻酔注射液を注入することです。これはさすがに麻酔が奏功します。百発百中の麻酔方法ですが、大きな欠点は針を突っ込んだ瞬間、患者さんには激痛が生じることです。目から火花が出たり、星が見えたとおっしゃる方もいるくらいです。ただし、これは一瞬のことでしばらくすれば激痛は収まります。まあ、神経の直接麻酔をするわけですから当然のことといえばそこまでかもしれません。
僕自身、何度かこのことを行ったことがあります。非常に申し訳なく思いますが、麻酔を聞かせないと全く処置ができないものですから、申し訳なく思いながらも最終手段として神経に直接麻酔を注射します。
ところで、よくアルコールに強い人は麻酔が効かないということを耳にしますが、正直言って僕はこのことがよくわかりません。体内において麻酔液の代謝とアルコールの分解代謝との間に何らかの関係があるのかもしれません。ただ、目的とする部位に確実に麻酔を注射すれば麻酔は奏功するものなのです。
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