2009年05月20日(水) |
入れ歯が凶器になることもある!? |
先日、口の中に口内炎ができて痛いということで来院された患者さんがいました。この患者さん、高齢で口の中には歯が一本も無く、上下の顎に総入れ歯でした。 患者さんに尋ねると、左下の奥の粘膜が痛いとのこと。実際に診てみると、確かに左下の歯肉と頬粘膜の境目に口内炎のようなものが見られました。 ただ、患者さんが指摘する口内炎でしたが、僕が診てどうも本来の口内炎ではないように思えました。何かの傷ではないかと感じたのです。
入れ歯を装着している患者さんの場合、入れ歯の適合が悪く、入れ歯の一部が歯肉に強く当たったり、食い込んだりしてできる傷がよくあります。専門的に褥瘡性潰瘍といいます。褥瘡とは寝たきりの高齢者に多い、いわゆる床ずれのことですね。口の中に褥瘡と思われる方も多いかもしれませんが、先に書いた入れ歯の不適合による傷はまさに褥瘡の一種なのです。この褥瘡が進行し、自然に治らない傷のようになった状態を褥瘡性潰瘍と呼ぶのです。
体は一日一日微妙に変化します。自分では気が付かなくても体は新陳代謝を繰り返し、変化しつづけるもの。顔や口も同様です。毎日同じものを食べているつもりでも、微妙な変化があるものなのです。 入れ歯はどうかといいますと、これも微妙に変化します。長期間使用しているうちに人工の歯が磨り減ったり、磨いているうちに表面が微妙に研磨されたりします。 変化をする口と入れ歯。口の変化と入れ歯の変化が同じような変化の度合いであればいいのですが、この変化のバランスが崩れた時はどうでしょう?入れ歯が合わず不快になるのです。こうした入れ歯の不具合の現象の一つが褥瘡性潰瘍なのです。
この褥瘡性潰瘍を治すには、入れ歯の調整しかありません。入れ歯が歯肉に合っていないことが原因であるわけですから。 今回の患者さんの場合は特殊でした。確かに下の奥が痛いと訴えられていた部分の原因は入れ歯の不具合ではあったのですが、下の入れ歯は問題ありませんでした。むしろ原因は上の入れ歯にあったのです。入れ歯を使用しているうちに咬みあわせが低くなり、上の入れ歯の奥歯の人工歯の一部が下の歯肉と頬粘膜の境目に接触していたのが原因でした。 おそらく食事の度に痛い思いをされていたことでしょう。それも昨日今日の問題ではなく、かなり長時間にわたり苦しまれてきたものと思われました。
僕は応急的に問題の人工歯を削り、左下の歯肉と頬の境目に当たらないようにしました。患者さんの反応は極めて良く、“これで食事をしても痛くなりません”と言われていました。
患者さんには今後、咬みあわせを調整したりしながら、場合によっては入れ歯を作り直す必要があることを説明しましたのですが、失った歯の代わりに使用していた入れ歯が口の中を傷つける凶器になったのでは意味がありません。入れ歯を凶器にしないためにも定期的な調整が必要なものなのです。
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