舌の色はピンク
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我が家の玄関の壁には穴がある。 ラグビーボール形状のそこそこ大きな穴だ。 酔っ払って帰ってきた兄がよろけてエルボーをくらわし どかんと空けてしまったという供述を家族から又聞きした。
「これはいかん、なんとかせな」と母は一計を案じたらしい。 数日して、穴はふさがれていた。 一体の人形によって。 人形ごときで穴の存在を隠し通せると思ってるおばさんの発想も 浅はかなばかりで、すでに愚の骨頂ではある。 だけどもそれ以上に、穴を隠す大役に抜擢されたその人形が…… ……ナンセンスの極みというか、シュール、アヴァンギャルド…… ……つまびらかに彼のデザインを記述すると、 まず目隠しされている。得体の知れない黒い帯で。 世界的な時流も相まってシャレにならない恐ろしさがある。 口には赤いプラスチックのリングが縫い付けられていて、 見ようによってはおしゃぶりみたいで可愛らしいのだが、 近くで観察すると赤ん坊が泣き出しそうなグロテスクっぷりが伺える。 また、ぶかぶかでチャーミーな服を着てはいるのだけども、 袖、裾がなぜかこれまた縫い付けられていて 手首足首の露出は控えられている。 極めつけは、これは人形のデザインでなくて母の所為なのだけど、 このホラー人形によって穴を隠すために、 あの女は人形を吊るすという手段を採用しやがった。 い、糸を……首にかけて……。吊るして……。
玄関にあるがために毎日必ずその人形(穴飾り様と呼んでいる)と会うので、 今では外出、帰宅のたびにきっちりお辞儀するのが日課だ。 じゃないと呪いとか確実に、 少なめに見積もって日に20は降りかかってくるだろう。
だけど、ホントは、穴飾り様に怯えて過ごさなきゃならんこんな毎日、 もう嫌なんだ……。 だれか……だれか……。
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