彼と雁を見に行ったあの夜、
私のマンションへ向かう彼の車の後部座席で、
彼はずっと私の手を握っていました。
私は彼の手を握り返しながら、
『今度彼に会う時は彼に抱かれることになるかもしれない…。』
と思いました。
次に彼に会ったのは二人の仕事のオフが重なった平日でした。
ランチタイムに、彼は以前話してくれた美味しいハンバーグのお店に
連れて行ってくれました。
食事の後、私達は二つの画廊に立ち寄りました。
彼が絵を買うためにしばしば訪れる画廊です。
彼と絵を見るのは美術館の時以来二度目でした。
今思えば、それは彼の意図するところだったのでしょう。
画廊を出た後、私達は彼の車で
郊外の大きなレンタルビデオのお店へ行きました。
彼は何か面白い映画があれば借りたいと言っていました。
彼は私以上に映画が好きで、沢山の映画を観ていました。
映画のパッケージを一つ一つ眺めながら、
彼の映画の話を聞くのはとても興味深く、楽しいことでした。
結局、一本のDVDを選んで、私達は車に戻りました。
しばらく車を走らせた後、彼が聞きました。
「このDVD、ホテルで見ようか?」
予想されていた言葉だったけれど、
一瞬私は驚いて運転席の彼を見ました。
「どうしたの?そんな顔して…。」
「ん…どうしよう。」
「どうしようって?」
「今考えてるところ…。」
私の言葉に彼は笑って言いました。
「そういうことは家を出る前に考えて来ることだよ。」
「そうですね…。」
その時の私の表情と口調で、
彼は私の返事がYes.だと確信したのでしょう。
私の予感は的中して、
その日初めて私は彼に抱かれたのでした。
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