こうして私はあなたを好きになった
綴りたいのは残された言葉、なつかしい匂い、
揺れる気持ち、忘れられない感触

2009年01月01日(木) 師走の冷たい街で


 仕事帰りに彼と待ち合わせをしました。

 その日は夜から冷え込むという予報が出ていたにもかからわず、

 私はハイヒールを履いて家を出ました。



 彼の車から降りると、夜の街を歩くための道路は凍結し始めていました。

 道路の向こう側に渡る時、彼は私の左手をサッと握りました。



 その日、私は深みのあるグリーンのシルクのブラウスを着ていました。

 レストランでコートを脱いで席に着くなり、


  「素敵な服を着てるね。」


 と彼が褒めてくれました。

 この頃、私はまだ時々あの人に会っていました。

 あの人の心は完全に私から離れていたけれど、

 私の心の中ではまだどこかで繋がっていたいという感情がありました。

 それは愛情というよりも、むしろ依存に近いものでした。

 けれど、あの人との縁が完全に途絶えてしまったら、

 彼との関係を含め、全てを見失ってしまうような気がしていました。

 彼との関係はいつでも不安定になりうるものだったので、

 お互いに不信感を抱きながらも、ある意味全ての障害を乗り越えて来た

 あの人との繋がりが私には必要だったのかもしれません。



 この日の彼はいつになく優しく、温かでした。

 たとえそれが一時のものにしろ、

 今彼が恋をしているのはこの私だと確信出来るのでした。

 私は親に深く愛されたという思いがないため、

 相手に強く求められているという実感がないと

 堂々と前を向くことが出来ないのでした。



 お店を出ると、外の空気は冷たく思わず身体が震えるほどでした。

 彼は自分のマフラーを私の首に巻きつけ、

 私の左手を自分のカシミアのコートのポケットに入れました。



 彼といてもあの人のことをどうしても思い出してしまう日があります。

 あの人と完全に縁を切ってみたところで、

 その苦しみからは解放されないような気がしていました。



 そんな日は彼が優しければ優しいほど、

 私はあの人のことを思い出してしまい、

 いつか彼の私に対する気持ちも

 冷たくて無表情なものに変わり果ててしまうと思うと、

 あまりに悲しくて涙がこぼれてしまうのでした。



 ホテルの部屋で彼は服を着たまま私を抱きしめました。

 私が彼の前で泣きそうになっている時、

 彼は欲望を抑えて、穏やかに静かに私を抱きしめるのでした。





↑エンピツ投票ボタン
 その行為が愛情なのか、ただの欲望なのか、

 その時の私には知る由もありませんでした。


 < 過去  INDEX  未来 >


理沙子

My追加