「私、酔ってきたみたい。
手が赤いもの。ほら。」
居酒屋のカウンターの左隣に座る彼に両方の手の甲を見せました。
「飲み過ぎたんだろ。」
その日の私はいつもよりも1杯多くお酒を飲んでいて、
彼はそのことに気づいていたようです。
「どんな手相してる?」
今度は彼が両方の手の平を私に見せました。
私も左右の手の平を彼の前に広げました。
「俺達の手相、似てるなぁ。^^」
彼が言うように、私達の左手の手相は本当によく似ていました。
「占いとか信じる方じゃないんだけど…」
と彼は以前知り合いの占い師に初めて手相を見てもらった時のことを
話し始めました。
「こっちは自分の情報は何も与えていないのにさ…。
守られているって言うんだよね。俺は。
ほら、この線…。」
彼が左の手の平の中央に長く伸びる線を指して言いました。
「これに一生守られているから安心なんだって。」
「お母さん?」
「だろうね。」
彼が小学校に入学する前に病気で亡くなった彼の母親のことは
今までに何度か聞いていました。
「良かったね。
お母さんはずっとあなたのことが気になっているはずだから。
天国でもあなたのことが気になって仕方が無いはずだから、
いつまでもずっと見守ってくれていると思います。」
彼と目が合って、ほんのしばらくの間見つめ合いました。
「今日は泣かないですよ。」
「当たり前だ。(笑)」
彼は今まで自分の生い立ちの話を何人の女性にしたのでしょうか。
大人になってから味わう孤独なら
大人の賢さで対処することが出来るけれど、
子供の頃に味わった本当の寂しさは
いつまでも心の奥に染み付いて消えないと思うのでした。
|