私達はカウンターに座って、
大将が目の前で揚げてくれる天麩羅を頂きました。
二人で食べたネタは海老、たらば蟹、きす、穴子、帆立、烏賊、春菊、
南瓜、蓮根、椎茸、薩摩芋、玉葱、グリーンアスパラと数えてみたら
十種以上でした。
サクッとした薄い衣と新鮮なネタの揚げたての天麩羅は
どれもがとても上品な味で、最後まで美味しく頂きました。
私は女将さんに薦められるままに
空きっ腹に白ワインを三杯も飲んだので、
後半はかなり酔っ払ってしまいました。
お店を出る時に足元がふらついて転びそうになりました。
彼は後でワインバーへ行こうかと言っていたのだけれど、
私があまりにも酔っていたのでそのままホテルに戻りました。
深夜にホテルで目覚めた時、私は彼の腕の中でした。
枕元には藍色のキャミとショーツがありました。
「もう帰らなきゃ。」
私が独り言のように呟きました。
翌朝彼はゴルフのために早起きしなければなりませんでした。
彼は携帯電話を手に取り、スケジュールを開きました。
「再来週はいつがいいんだっけ?」
私は以前彼に告げていた日にちを言いました。
「その日は駄目だな…。仕事が入ってる。」
「そうなんですか?
何も予定が無いって言ってたのに…。」
「後から仕事が入ったんだ。他の曜日は?」
「その週は私はその日しか駄目なんです…。
でも2週間も会えないなんて絶対無理!!」
ちょっと大袈裟に駄々をこねて言うと、彼が笑いました。
「前はこんなに会ってなかったし、こんなに食べてもいなかったって
言ってたのに可笑しいだろう。(笑)」
私の前の恋愛を持ち出して彼が言いました。
「あの時はあの時、今は今です。
Tさんは我慢出来るんですか?^^」
「仕方ないだろう。仕事なんだから。
それにその翌週は旅行でずっと一緒にいられるだろう?」
彼は私の我侭に呆れながらも、
連休の真ん中の日曜日を私のために空けてくれました。
シャワーを浴びようとベッドから下りると、
鏡の前の椅子の上にスカートがかけられていることに気付きました。
「これ、私が掛けたんですか?」
「俺が掛けたんだよ。理沙子が酔っ払っていたから。
何も覚えてないのか?」
「何もって?」
「セックスしたこと、覚えてないのか?」
「気持ち良かったです。^^」
「嘘付け。覚えてないくせに。(笑)」
「気持ち良かったことは覚えてるんですけど、
どんな風にしたのかは覚えてないの。(笑)」
ベッドに入る前にシャワーを浴びてキャミとショーツを着けたのは
間違いなく自分なのに、その前後の記憶がありませんでした。
「私、おかしなこととかしてないですよね?」
「凄くいやらしかったよ。(笑)」
「人としてあるまじき行為とかしてたらどうしよう。(笑)」
帰りの車の中で、
「もう当分天麩羅は食べなくていいな。」
と彼が言いました。
「あっさりして美味しかったから、私はまた行きたいですけど。
でもあんなに酔っ払ってたから、もう恥ずかしくて行けないかな。」
「ピッチが速かったもんな。空きっ腹に飲み過ぎるからだよ。
きすが出てきたら、どこにキスするとか何とか言い出すし…。^^」
「えっ、私、恥ずかしいこと言ってましたか?^^;
どうしよう…大将に聞かれちゃったかな。」
「俺しか聞いてなかったから大丈夫だよ。^^」
「もう飲み過ぎないようにしなきゃ。
あるまじき行為に走らないように。(笑)」
「今日の理沙子はあるまじき体位で、あるまじき奇声を発し、
あるまじき快楽に耽っていました。(笑)」
車を降りる時、彼は私の唇におやすみのキスをくれました。
彼はいつもと変わらず優しかったけれど、
酔っ払いの私に呆れてしまったのではないかと少し心配でした。
天麩羅屋さんの後にワインバーに行けなかったことも
愛し合った記憶が消えてしまったことも
彼に悪かったなと心がチクリと痛みました。
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