「車の雪を下ろすから、ロビーで待ってて。」
彼はそう言って、先にホテルの部屋を出て行きました。
ちょうど私がロビーに着く頃に、携帯電話に着信がありました。
「今、ロビーにいます。」
「じゃあ、外に出て来て。」
エントランスを出ると、駐車場から出て来る彼の車が見えました。
私達がホテルに滞在していた間に車の上に積もっていたはずの雪は、
既に取り払われていました。
彼の車に乗り込んで、彼の横顔を見つめました。
深夜に寝起きで雪下ろしをしてくれた彼に、
「寒かったでしょう。ありがとう。」
と言いました。
「チェックインが早かったから、凍ってなくて良かったよ。」
彼は『どうってことないよ。』という表情で前方を見つめていました。
薄暗がりの中で、
彼の横顔はいつもより少しだけ年を取っているように見えました。
「どのくらい好き?」
とベッドで私が聞いた時に、
私の身体が折れそうな位にきつく抱きしめてくれた彼。
愛おしい気持ちがこみ上げて来て、
私はしばらく彼の横顔を見つめていました。
信号が赤になった時、彼が私の視線に気づきました。
ホテルに向かう車の中で彼が私の手を握る時、
それは私を抱きたいというサインだけれど、
帰りの車の中でそっと握ってくれる彼の手の温もりは
別れの寂しさを和らげてくれる彼の優しさです。
いつものように彼の車を見送りながら、
彼が私を大切にしてくれるように私も彼を大切にしたいと思いました。
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