不安な気持ちで素っ気無い別れ方をしたデートの翌朝、
もう一度彼と電話で話しました。
彼は前の晩と同じように、もし私達が遠距離になったら、
二ヶ月に一度位しか私に会いに来ることは出来ないだろうと言いました。
「理沙子がこっちに来ることは出来ないの?」
と彼は私に尋ねました。
隔月で私と彼が行ったり来たりすれば、
月に一度のデートも可能かもしれません。
でも、彼の性格にそういう付き合い方は向いていないような気がして、
そのことは口にしませんでした。
この日、彼は午後からゴルフに行く予定になっていたので、
ゴルフが終わったら会って話をしたいから電話が欲しいと
メールを送りました。
夕方、彼から電話があったけれど、彼はとても疲れている様子で、
「今日は止めよう。
明日ランチをしながら話をしよう。
何時頃がいいか夜にでもメールを入れておいて。」
と言いました。
翌日、彼は忙しい仕事の合間を抜けて私に会ってくれました。
私は彼のオフィスからあまり遠くない行きつけのお店で、
ランチをしながら彼と話をすることを想定していました。
でも彼は、私に会うとすぐに、
前から二人で行きたいと話していた郊外の公園へ行こうと言いました。
広大な美しい公園内にはお洒落なフレンチレストランがあります。
彼はそこで食事をしようと言いました。
車の中で私達はずっと他愛ないお喋りに夢中になっていたけれど、
彼は前日のゴルフのプレイ中に、
二年ぶりに不整脈の症状が出たという話をしました。
胸が苦しかったけれど、友達には話さずに、
どうにか一人で車を運転して帰って来たそうです。
「今日は大丈夫なんですか…。
昨日の電話でもそんなに具合が悪いこと言ってなかったですよね。
Tさんは周りに気を使って言えないんでしょう。
そういう時は私にも友達にも本当のことを言って下さいね。」
「家に帰ってすぐに、以前貰った薬を飲んで寝たから大丈夫だよ。」
私は彼のこの話を聞いて、
その時に感じた気持ちのままを彼に伝えました。
「俺は何もしないで、理沙子を待ってればいいのか?(笑)」
「うん、私の方が若いから私が来るね。^^」
公園内のレストランはあいにくウエディング・パーティのために
貸し切りとなっていました。
私達はそこでランチをすることは諦めて、
ピラミッド型の施設の屋上から公園を眺めたり、
設計者のギャラリーを見学したりしました。
公園を出てから街の中心部に戻り、ラーメン屋さんへ行きました。
食事を終えると、もう彼は仕事に戻らなければならない時間でした。
「今日は俺の顔が見たかったの?^^」
車の中で彼が私に尋ねました。
私達のこれからのことを話し合いたいと思っていたのに、
そんなことはもうどうでも良くなっている私の気持ちに
彼は気づいているようでした。
「話をしたかったんだけど、ラーメン屋さんじゃ話せないしね。^^」
「もっとずっと先の話だろう?
今はまだいいじゃないか。」
「そうですね。」
この日の彼との時間があまりにも楽しかったから、
私達のこれからの関係について話をすることなど
意味が無いような気がしました。
「そばにいて。」
私が彼に横浜へ帰るかもしれないという話をした夜、
彼がベッドで私を抱きしめて呟いた言葉を思い出しました。
あの時はベッドの中の戯言のように聞いていた彼の言葉だけれど、
後になってあの短い一言こそが彼の本心であるような気がしました。
|