こうして私はあなたを好きになった
綴りたいのは残された言葉、なつかしい匂い、
揺れる気持ち、忘れられない感触

2010年08月15日(日) 笑顔が消えた日


 前日までの楽しかった時間を

 気まずい雰囲気で終わらせたくなかったので、

 私は予定通り美術館へ行きたいと言いました。


 「分かったよ。行こう。」


 重苦しい空気の中で彼が呟くように言いました。




 ドライブの間、私達はほとんど言葉を交わしませんでした。

 彼の表情からは完全に笑顔が消えていました。

 私は色々なことを思い巡らしました。

 彼がそれほど私に対して怒りを露にするのは初めてだったので、

 原因は私達の朝の会話だけの問題ではないような気もしました。

 この三日間、彼はずっと疲れていたのかもしれないと思いました。

 或いは私が知らない所で、

 仕事や家庭のトラブルが起こっているのかもしれないとも思いました。

 私の心の中でも前の晩あたりから

 彼に対してどこか醒めた気持ちがあったから、

 彼も私と長い時間を過ごすことに疲れを感じているのかもしれないと

 思いました。




 美術館でも私達は二言、三言言葉を交わしただけでした。

 まだ元彼のことを好きだった時、

 彼に誘われて車で美術館へ行った日のことを思い出しました。

 あの時は私の心がまだ彼を受け入れられなかったけれど、

 今は私が彼の心に近づくことさえ許されないような気がしました。




 帰りの車の中で、


 「スパへ行って汗を流そう。」


 と彼が言いました。

 ホテルのスパには食事が出来るスペースもあるので、

 そこで夕食も済ませようと彼が言いました。




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 私が車を降りる時、彼は私の手を取ってくれました。

 そして後部座席に置いていた大きなバッグを渡してくれました。

 瞬間二人の目が合って、車の陰で短いキスをしました。




 もしかしたら近いうちに彼とは別れることになるかもしれないと

 私は思いました。

 デートの最後に気まずくなったことは何度かあるけれど、

 一度も彼の笑顔を見なかった日はありませんでした。

 二人で過ごす時間が楽しいと思えなくなったら、

 潔くこの恋を終わりにしようとずっと思っていました。

 私は一つ前の恋を思い出していました。

 二人の心が離れているのに何年も追いすがるようなことは

 もうしたくないと思いました。



 この日、彼と別れてから私はすぐにお礼のメールを送ったけれど、

 深夜になっても彼からの返信はありませんでした。


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理沙子

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