2014年10月11日(土) |
せつないハードボイルド。(2) |
つづき。
おさらいのためにあらすじを書いてみた。
* 毛沢東の親衛隊(紅衛兵)だった呉昌は 毛の共産主義思想を信じる純真な若者だった。 「正義」のために残忍なこともしたが、 それは崇拝する毛沢東への忠誠心からだった。
が、毛の死後、国の指導者が変わったことで 紅衛兵は逆に迫害される側になってしまう。 恋人と命からがら国境の川を泳いで香港に逃亡した彼は、 国境警備隊に追われるうちに恋人とはぐれてしまう。
その後10年。 彼は香港のビジネス界で成功し、 クール(でダーク)な青年実業家 ヘンリー・黄となっていた。 汚い手を使って企業買収をしたり、 白人の有閑マダムと遊びでつき合ったり・・・ 紅衛兵時代とは正反対のキャラクターになっていた。
あるとき、 彼ははぐれた恋人と再会する。 彼女はクラブ歌手になっていた。 ヘンリーは彼女が歌う故郷の歌を聞きながら、 自分は彼女と祖国中国を愛する呉昌であることを はっきりと自覚する。 多分それ以前も、 心の中はずっと紅衛兵のままだったのだ。 「いつか再び中国に戻って、 もう一度かつてのような“正しい”中国を作る」 という信念を持ち続けていたのだ。 巨万の富を築いたのも多分そのため。 香港一の新聞社を買収したのも、 香港の富だけでなく言論も支配したかったから。
でも、あるとき彼は 自分の出生の秘密を知ってしまう。 愛国者として生きてきた彼は、 実は祖国を侵略した日本人の子どもだったのだ。 日本人スパイだった彼の父は中国政府に拘束され、 母はその後彼を中国人夫婦に預け一人日本に帰国してしまった。 呉昌は中国残留孤児だったのだ。 実の母が今も日本で生きていることを知った彼は、 年老いた母の健康を気にかける・・・。
自己矛盾に苦しみながらも、 何とか「紅衛兵」・「中国人」でいようとした呉昌。 新聞社買収を手みやげに彼が訪れたのは、 毛沢東やレーニンの肖像画が飾られた秘密の場所。 彼と同じ信念を持つ香港財界人(華僑)の秘密結社だった。 ところが、 メンバー入りを認められた彼に不意に襲いかかったのは 自らの生い立ちだった。
新聞の一面に 「ヘンリー・黄は日本人戦犯の子だった!」 と書き立てたのは、 買収された新聞社の社長だった。 社長は日本のジャーナリストと話すうちに、 彼の身内を殺した日本人スパイが ヘンリーの父であることを知り、 その恨みをヘンリーに向ける。 そして刺客の放った弾丸は、 ヘンリーをかばった恋人に命中してしまう。
秘密結社から除名され、 命を狙われ、 恋人も富も名声も失い、 香港にいられなくなった彼はどこへ行くのか・・・。
ラストシーン。 のどかな山村風景の中を歩く呉昌(ヘンリー・黄)。 道には農家で飼われているアヒルの群れ。 彼は中国人名の偽造パスポートを持って 国境検問所へ向かっていた。
見送りに来た日本人ジャーナリストに 「なぜ中国へ?」と問われ 彼は 「君は新しい革命の報道を読むだろう」 そう言い残して去って行く・・・。
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あまりにせつなくハードボイルドな中国。 と、どこかに書いてあったけど、 ほんと。そう思う。
つづく。
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