| 2025年10月27日(月) |
定命 / 瀬戸内 寂聴 |
寂聴の死後、寂庵の書斎からおびただしい句稿が見つかった
小説とちがい、私にとって俳句は無責任な愉しみだけを与えてくれるので 今では無二の友になりました 死ぬまでつづけるつもりです
落椿形くずさずりんとして
七夕や他人には語れぬ願いごと
捨てきれぬ煩悩ひとつ去年今年
死にぎわを描く癖つく冬寂庵
死ぬる日もひとりがよろし陽だけ照れ
願わくばうらうら死なん黄のさくら
菖蒲湯に全身ゆだねわが定命
わが逝くを誰にも知らすなほたるの夜
定命(生まれたときに天から定められた寿命のこと)
| 2025年10月24日(金) |
初夏ものがたり / 山尾 悠子 |
この世とあの世の仲介者ともいうべき奇妙なビジネスマンのタキ氏は、手を触れるだけで生者の記憶の一部を消去することができる特殊な有力を有しているらしい
あの世の者がもう一度この世の者に会いたいというルールがある
童女の面影をとどめた愛らしい女性たちがヒロインとして登場する だから、文中の描き下ろし装画がすばらしい(酒井駒子)
| 2025年10月20日(月) |
汚れた手をそこで拭かない / 芦沢 央 |
平穏に夏休みを終えたい小学校教諭、認知症の妻を傷つけたくない夫。元不倫相手を見返したい料理研究家…。気付かぬうちにお金の魔の手はやってきて…
ただ、運が悪かっただけ 死期の近づいた妻は何かに悩んでいる夫に「もしあなたが何か苦しいことを抱えているのなら、私があちらに持っていきましょうか」と
埋め合わせ 夏休みのプール当番で 水が抜けているのに気づいた 教頭に正直に話すチャンスを失くして、過失として水道料金を埋め合わせさせられるのではと
忘却 エアコンを付けていなかった隣人が熱中症で死んだ 隣人に電気料金の未納請求が来ていた郵便を間違って開封してしまったから、死んでしまったのは自分のせいだと思った
お蔵入り 念願の映画監督になってクランクアップも間近になったのに、主演俳優の覚せい剤疑惑が発覚しそうになった 主演俳優と言い争いの途中で その俳優をベランダから突き落としてしまった 自殺で処理されたが、現場を見ていたという目撃者が現れる
ミモザ 料理研究家として念願の本を出版したサイン会に昔の男が現れた 落ちぶれた男は巧みな嘘で借金を申し出た
ちょっとした判断ミスによるお金の問題をネタにした物語
| 2025年10月15日(水) |
骨を彩る / 彩瀬 まる |
何も喪わず、傷つかず生きている人なんていない−。なかったことにできない、色とりどりの記憶がいま、あなたに降り注ぐ。色彩をなくした過去、記憶、日々に、あらためて向き合い、彩ってゆく希望の物語。
指のたより 妻の朝子は十年前に大腸がんで、三歳の娘を残して二十九歳という若さで亡くなった。 父から引き継いだ不動産会社にかまけてあまり病気の妻をいたわれなかった 久しぶりに妻の夢をみたが、妻の小指が欠けていた
古生代のバームロール 離婚して実家の弁当屋を手伝っている光恵 趣味は千代紙を折ること 高校のときの教師が亡くなって、身寄りもないので仲良しの友人達とお別れ会を開いた
ばらばら 高校のときの教師のお別れ会を中心になって取り仕切った玲子 息子がいじめられていると聞いたとき、事情を聞く母のことを息子は「ママ、怖い」と言った そんな玲子を夫は疲れているようだからどこか旅行でもしてこいと言う ふと、小学生のとき両親が離婚してそれからとうとう生きているうちに会えなかった父の墓参を思いついた
ハライソ 不眠症の浪人生(浩太郎)と中学二年の不登校児(ヨシノ)がインターネットのゲームで知り合った その後、浩太郎は大学卒業後地元の不動産事務所の就職し、ヨシノは薬化大学に入学した
やわらかい骨 三歳の時、母が亡くなってそれからずっと父と二人で暮らしている 中学校で部活はバスケットクラブ 友達の母親から母のいない子としてみられていることは すこし気持ちに引っかかりを感じている 転校生とちょっと仲良しになったり、別のクラスの男子と付き合ったり
私はこの父娘が好きだ
| 2025年10月07日(火) |
花いちもんめ / 石牟礼 道子 |
平成十一年五月二日より同十七年三月二十日まで、五十七回にわたり、「ちょっと深呼吸」のタイトルで朝日新聞(西部版)に連載されたエッセイを再構成、加筆したもの でも、途中で手足が不自由になって担当の記者による口述筆記となって完成した
少女期の回想から鮮やかによみがえる、失われた昭和の風景と人々の暮らし そして水俣の美しい自然 衰えかけている太古の海の力を何とか呼び戻せないかという筆者の願い
花一匁とは、ままごとの店のれんげ草や菜の花の重さ
ふるさともとめて花いちもんめ 簞笥長持 どの子がほしい あの子がほしい
| 2025年10月02日(木) |
老いた親はなぜ部屋を片付けないのか / 平松 類 |
部屋を片付けない、頑固で言うことを聞かない…。老いてきた親との付き合い方や、問題行動があったときにその背景に何があるのか、どう対処していけばいいのかを解説する。『日経Gooday』連載を加筆し新書化。
眼科医の立場、経験からの発信、思い
私も部屋を片付けない老いた親なので、自分のこととして読んだ
言い訳ではあるけれど私が部屋を片付けないのは ただただ面倒くさいから
白内障手術もしたし、両膝人工関節だし あちこち身体が痛いのと もうどうでもいいやという厭世感があるから
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