てくてくミーハー道場

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2009年04月05日(日) 『ムサシ』(彩の国さいたま芸術劇場 大ホール)

(具体的に「どんな話だったか」は書きませんが、作品のテーマに関わるすっごい大事なネタバレをしているかもしれないので、これから観に行く方は、そのつもりでお読みください)



チラシを手にした時、まず鼻血が出るほど興奮(大袈裟)

次に、「大丈夫かな・・・?」(失礼だけど、可能性はなきにしもあらず)

という感じで待つこと数か月。

無事に幕を開けて(だから、失礼だっつの)ひと月後、はるばる(これまた埼玉県民に失礼)「彩の国」まで罷り越しました。

この季節、桜は満開なのだが、このコヤのある与野本町の駅前通りに植えられている薔薇の大群(ここに行く楽しみの一つでもある)は、まだ一輪も咲いてなく、ちょっと残念であった。



芝居の話、しましょう。

実を言えば、“井上ひさし×蜷川幸雄”に、老舗ブランド力は認めるが、正直あまり期待できない気持ちを抱いているここ数年。

文化村での「往年の名作三番勝負」に、ことごとく(マシなのは『道元の冒険』だけだった。恐れを知らぬ断言をしてしまうが)失望させられていたので、今回のも「どーだろー・・・?」と懐疑的ではあった。

だが、今回は新作書き下ろしだし(それはそれで、別の心配が/汗)、音楽は宮川彬良センセイなので、いくらか安心できるかなと(この時点では、「音楽劇ではない」ことを知らなかった)

何よりも、キャストが魅力的。

ニナガワの懐中の珠玉たちが大集結という感じで、やはり見逃せないのだった。

で、観終わってつくづく思ったことは。

井上ひさしの大勝利なのだった(T_T)

簡単に言っちゃうと、「ハンカチが2枚要る」芝居なのであるが、ぼくは、その作品を絶賛する時に「泣ける」とかっていう“やっすい”形容詞、絶対使いたくないのである。

でも、しょうがない。涙が次から次に出てきて、絶対ハンカチ2枚要るので!(開き直り)

ただし、そこは井上ひさしなので、「泣ける」と言っても、テレビCMで、仕込みじみた観客に「カンドーです」だの「私も××しなきゃなぁ〜と、思いました」だの言わせてる、薄っぺらい「泣き」の大安売りしてる三流映画(い、言い過ぎ!/汗)のそれとは、ぜんっぜん違う涙である。

まず、なぜ「2枚」要るか。

まず一幕で、「もーだめ! 化粧が、化粧がくずれる・・・、や、やめてーっっっ!」と言いたくなるほど、笑わせられるからである(ここで、たっぷり1枚使う)

そして二幕では、「な、なんというオチ!」という、ぞーっとする感動に襲われるから(でも、ここで出てくるのはやはり冷や汗じゃなくて、涙)

いやー、実は、何となく「ぞーっとする感動」は期待していたのだが、泣くほどそうなるとは、思っていなかった。フェイントかけられた気分である。

井上作品って、『人間合格』の太宰治にしても、『太鼓たたいて笛ふいて』の林芙美子にしても、なんか、世間に流布してるイメージとは、ちょっとかけ離れた人物描写をしてることが多い。

なので今回の『ムサシ』も、世間一般が抱いているイメージ(それは、史実の宮本武蔵というよりも、吉川英治が作り上げた武蔵)とは、ちょっと違った感じになるのではないかという期待があった。

しかも、藤原竜也くんだし(*^^*)←いや、決してミーハー的な意味ではなく

今までの武蔵って言うと、三船敏郎とか萬屋錦之助とか市川新之助だとか(^^ゞが演じてきたせいで、でっかい目ん玉ひんむいて、「ぐあお──っ!」つって、飛びかかって来るようなイメージが強い。

それが、今回は、竜也くんである。

童顔で、八重歯の、竜也くんである(こら)

いや、竜也くんは、大人っぽい芝居はいくらでもできる人なんであるが、「藤原竜也と小栗旬が武蔵と小次郎を演る」って情報だけで、すっかり少女マンガ風「イケメン巌流島」になってしまう危惧いや期待は充分ではないか。

まるで等身大3D『バガボンド』ではないか。(実際は全然違ったけど)

これに鈴木杏がからんでくるとなれば、これがもし映画やテレビドラマだったら、もう「やってらんない」状況になりかねない(どーゆー意味?)

それが、ずぇ〜んぶ、杞憂であった。

もーそれだけで嬉しい中年(≧∇≦)←よくわからない心理

なんか、全く内容に触れてないので、読んでてストレスMAXの方も多いと思いますが、とにかく「少女漫画風安い感動ドラマじゃなくて、良かった──っ!(山本高広風に)」とだけ、申し上げてヒントとしたい。





役者さんたちの話をしましょう。

今回、登場人物は、意外と少ない。

モブの迫力で情景描写をするのが得意のニナガワにしては、珍しい作劇法であった。

逆に言えば、そんだけ今回は(ぼくとしては)ニナガワの演出力にはさほど感じるものはなく、ひたすら井上ひさしの筆力に圧倒されたのみである(大好きな宮川先生の音楽も、「少し、ストレートすぎるかな?」と思った。「ここで笑え」「ここで泣け」と、分かりやすすぎたのである)

まず、タイトルロールの竜也くん。

実は、『ムサシ』ってタイトルは、観始めてすぐ「そうか?」って思い、それがラストシーンまで続く。

実は武蔵は“主役”とは言いがたい。

本当の主役は     であるから(思わせぶり)

そうでなくても、途中まで「これって、『武蔵と小次郎』の方が、タイトルとしてはぴったりだよなあ」とずっと思いながら観てた。

武蔵はどっちかというとウケの芝居が多く、今までの竜也君の舞台のように、主人公として感情を前へ前へ吐き出す感じの芝居は封印されていた。

実は全然そう見えなかったのだが(そう見えない演出をしていた、と思うのだが)、この芝居の中で、武蔵は35歳なのである。

この年齢設定には、少々疑問があった。

でも、巌流島の決闘の時に武蔵が29歳だったのは史実なので、それから6年後、という設定が大事だったということで、仕方なかったのかもしれない。


で、対する小次郎の小栗旬くん。

小栗くんの舞台って、ぼくは『ハムレット』しか観てないんだよね。

そういや『ハムレット』でも竜也くん(ハムレット)の“ライバル”(フォーティンブラス)役だったな。役の重さは全然違うけど。

今回は、がっぷり四つというか、一方的に小次郎が武蔵につっかかってるみたいな感じの間柄(^^ゞ

小次郎の年齢は、実は諸説あるらしい(巌流島の時に、既にじいさんだった、という説まである)のだが、今回は「武蔵よりも6歳年下」という吉川英治説に則っている。

26歳にして未だに高校生役をやっちゃってる小栗君らしく(コラ)、本当は同い年の竜也君に、ぎゃんぎゃん歯向かっていく(でっかい)小犬っぷりが、たまらぬ(≧∇≦)←おい・・・

ただ、ぼくの偏見のせいだけとも思えないが、出演者の中では、一番「舞台体力」がなく感じた。

長ゼリフを、自分の言葉として最後まで言い切る体力がない。

竜也くんや鈴木杏ちゃんも含めて、他の出演者たちがすごすぎたってのもあるんだが。

だが、実は今回の芝居の中で、一番「愛すべき」キャラだったのは、佐々木小次郎であった。

思いっきしベタな表現で申し訳ないのだが、とにかく「可愛い」のである。

『すすめ!! パイレーツ』の花形見鶴の可愛さ、と言えば一番解りやすいと思う(若い人には、逆にわからんだろーが!)

(上げたり落としたり上げたり落としたりで申し訳ないが)ただし、八頭身が災いして、着物似合わねぇ〜!

竜也くんも身長は同じなんだが、頭身が(略っ!)


鈴木杏ちゃん。

一見ヒロインのようなキャスティングだったのに、(以下、ネタバレなので書きません)

お芝居、やっぱ上手いな。初見の『ハムレット』の時のオフィーリアには「もうちっとガンバレ」と思ったのだが、今ならもう一度オフィーリア(もちろんハムレットは竜也くんで)を観てみたい。そう思える演技だった。

しかしもう、ヘレン・ケラーじゃなく、サリヴァン先生の方の人なんだね(今度演るそうです)

成長の早さにびっくりだ。


白石加代子さん。

完敗です m(×_×)m

この方のお芝居に、ぼくごときがあーだこーだ言う資格はございません!


吉田鋼太郎さん。

この方もそう。あーだこーだ言ったら、怒られます(いや決して、書くの疲れてきたわけでは・・・)

彼が演じた柳生宗矩と宮本武蔵の取り合わせと言うと、ぼくは『魔界転生』(山田風太郎)を思い出してしまうどミーハー変わり者なのですが、あれに出てくる宗矩とキャラが違いすぎて、もーおかしくてしょうがなかった。

でも意外とこっちの方が、史実の宗矩に近いとか・・・?(ホントかよ!?)


辻萬長さん。

井上ひさし作品になくてはならぬ大看板で。

どうすか、この安定感。(誰に言ってんの?)


大石継太さん。

ひたすら「上手い!」の一言。一番この人に笑わされ、一番この人に泣かされた。





最後に、恐れ多くも「世界のニナガワ」にダメ出しなのだが、もーちょっと、心持ち、各シーンを短く出来なかったかな〜? と思う。

小劇場育ちの客の欠点なのかなー? もう少しだけ、展開にスピードが欲しかった。

あーでもこれって、今ドキの「1分で笑えるギャグ」を喜び、20分間の漫才や落語をじっくりと堪能できる「観劇体力」を持たぬ、考え事が苦手な現代人の弱点なのかもしれない(ぼくはどっちかというと、じっくり派なのだが。レッドなんとか、とか、ああいうの、本当に面白いか? と聞きたくなる。みんなイキオイで笑ってるだけにしか思えない)

実は最初「上演時間は、15分の休憩を入れて3時間半です」と言われて、一瞬「ぐぇっ」と思ってしまった情けないぼくなのであるが、実際観終わってみると、いささかも退屈しなかったのである。

ただ、「このシーン、長い。まだ終わらないの?」と思いはしなかったのだが、「ここの間合い、ほんのちょっとだけ刈り込めば、もっといいのに」と生意気なことを思ったところが何か所かあったのである(ここが、井上ひさしには100パー感服して、蜷川幸雄にはそうでもなかった所以)


でもどっちにしても、最高に嬉しい芝居であった。小栗くんがもう少し達者になったら(ありゃ、またこれ傲慢な感想ですね)是非再演していただきたい。

いや、今回ので充分なので、是非ともビデオを持っときたいと思う。WOWOWさん、よろしく(^^ゞ←コラ


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