ささやかな日々

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2022年02月16日(水) 
性暴力被害で刑事告訴しているAちゃんから連絡が入る。駄目そうだ、と。折り返し電話をすると、機関銃のように彼女から言葉が飛び出してきた。
「Sさんはよく時代は変わったって言うけど、変わってきたのかもしれないけど、でも、私にとって今この時点での法律はただのクソとしか思えない。どうして誰もこれを変えようとしてこなかったのか、悔しくて悔しくてたまらない」
「これって、被害者が負け組ってことですか。最悪じゃないですか。言われたい放題言われて、加害者の方が自分は被害者だみたいな顔してて、やりきれない」
「Sさんも私もつまり、負け組なんですよ。確かにSさんは今盛り返して輝いてるけど、でも、負け組だったことに変わりはない」
「みんな当事者感なさすぎ!こんなおかしな法律そのままに放っておけるってもう絶対おかしい。みんな結局他人事なんですよ」
「もう、当事者感ない奴ら全員、等しくレイプされればいいって私本気で思ってます」

まくしたてる彼女に、私は返事を一瞬躊躇った。今は冷静じゃない彼女に何を言ってもどうしようもないと思えた。でも。どうしても言いたい一言があった。
「全員レイプされればいいなんて私は冗談でも思えないなあ。それから、Aちゃんに私の人生の勝敗をつけてほしくはないなあ。それ、決められるの、私自身だけだと私は思ってるから。そもそも勝敗って何。Aちゃん今あなたが性暴力被害当事者だからそういうこと言ってるけど、当事者じゃなかったらどうだった? 人間そんなもんだよ。当事者になってはじめて、いろんなことが我が事になるんで、そうじゃなければ余程努力しないかぎりどこまでいっても他人事だよ」

ああ、冷静じゃない彼女にこんな冷たいこと言うべきじゃない、と途中で思った。でも、私はどうしても黙っていられなかった。

時代は変わってきてる。私はそう思ってる。私が被害に遭った1995年から今日までの間に、微々たるものかもしれないけれどもそれでも変わってきたと私には感じられる。でも、確かにAちゃんにとっては今ここの今この時点の法律こそが全てなわけで、彼女の気持ちも分からないではない。というか、わかり過ぎる。私もかつて、そういう絶望を味わったことがあった。
それならもっと、やさしい言葉をかけてあげればいいのに。どうしてそれができない自分、と、自分を叱り飛ばしたくなりもする。でも。残念ながら私はそこまで人間できていない。
私は少なくとも、法律を変えようと必死に戦ってきた友人らを知っている。その為に身を粉にして行動し、今も戦ってる友人らを知っている。だからこそ、彼女の「当事者感ない奴らは全員レイプされればいい」という言葉にはとてもじゃないが同意できなかった。
私はむしろ、誰一人レイプされないで済むならそれに越したことはないと本気で思っている。当事者になんてならずに済むならそれに越したことはないとも思っている。知らなくていいことも人生には多々ある、と、そう思っている。知らなくてよかったことだったのに、当事者になってしまったがゆえに知らざるを得なくて、それをまさに体験せざるを得なくて、という友人たちを見ているから、自分も含めて見ているから、だから、全員レイプされればいい、なんて冗談でも言いたくない。とてもじゃないが、私はその彼女の言葉を、そのまま聞き流すことは、できなかった。

にしても。私もまだまだ未熟者だあな。こんなことで心が痛んでしまうだなんて。もっと余裕もって生きられないかな、ほんとに。


浅岡忍 HOMEMAIL

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