バビロンまで何マイル?
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2006年09月12日(火) 10W病棟(3)

入院したばかりのある夜、病室で姐さんとマターリ話をしていたら、食堂の方から怒鳴り声と何かが倒れる音が聞こえてきた。
 姐「なんだー?」
 私「誰か暴れてるのかなぁ…ちょっと行ってみようか」
姐さんと二人で食堂の方に行ってみると、食堂にはほとんどの患者が集まってきていた。男性患者が二人つかみあっていて、別の男性が間に入って止めている。若い女の子の何人かは泣き出している。
 姐「あー、やっちゃったか」
 私「あの二人仲悪かったの?ふつーに話してたと思ってたんだけど」
 姐「片方がちょっとアレでね」
夜勤の看護師(ベテランの人で良かった)が一発叱りとばしてとりあえずその場はおさまる。しかし男性陣はおさまらず、話を聞いて飛んできた医師や看護師に詰め寄ったりしている。
姐さんはしゃがみ込んで泣く女子をなだめ、私は怯えるおばあさん(隣のベッドの人だった)を「大丈夫ですよ」と病室に送り、落ち着くまで話につきあう。

 とんでもないところにきちゃったなぁ…と正直思った。しかし姐さんが言うには「最近は珍しいよ。今入院しているのは大人しい人ばっかりだから。前はけっこうあったよ」とのこと。この程度でビビっていてはいけないということか。


消灯直前に喫煙所に行くと、喧嘩していた片方が(後で聞いたらこっちが「アレな人」らしい)入ってきた。喫煙所が凍り付く。
誰も何も喋らず、ただ煙草を吸うことに集中しているのに彼はへらへら笑っている。怖い。
無言のまま早々に退散し、消灯時間となったが寝付かれず、睡眠薬を追加してもらう。

翌日、姐さんから事の詳細を聞くことができた。「アレ」な方が保護室に収容されたとのこと。姐さんの「もう保護室から出てくんな(怒」との言葉に、みな同意する。
こんな所にいて「あいつおかしいよ」と言われるのも何やらものすごく矛盾を感じないでもないが、ここにも人間関係がある。だから病気云々の前に「性格的に嫌われる奴」というのはいるわけで、まあその人がそーいう人物だったということだ。私はまだほとんど喋ったことがなかった人だったんだが、他の人たちの話を聞いてるとさもありなん、という感じもする。
もう一人の当事者は「ごめんね、入院早々脅かしちゃって」と謝ってきた。この人は話してみると、気さくでとても良い人だった。どうやらそれまでにもいろいろ経緯があり、溜まり溜まってのことだったらしい。

保護室は病室群とは別のエリアにあり、基本的に行動が制限される(病院外への外出許可が出ていても、病院の敷地からは出られない。買い物等には医師の同行が必要。喫煙もしばらくの間制限されていたようだ)。ずいぶん経ってから、たまたま扉が開いてる時に覗いたのだが、だだっぴろい部屋の中にマットレスだけがぽつんとあり、扉の反対側は鉄格子。トイレも部屋の中にある。ここに長期収容されるのはかなりキツいらしい。

私も環境に徐々に慣れてきて、ぽつぽつ話をしたり、漫画を読んだりしていたので昼間は割と平気だった(病棟内には公衆電話が1台あり、家族以外への電話は禁止されているのだが、こっそり友達に電話したりしたし)のだが、私の場合こーいうことは後からじわじわやってくる。この日の夜、とうとう涙が止まらなくなり、夜勤の看護師さんに助けを求めた。ナースステーションの前でしばらく泣きじゃくってから頓服の薬をもらい、やっと眠った。

(続く)


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