やんの読書日記
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2004年01月08日(木) シールド・リング ヴァイキングの心の砦

サトクリフ作
山本史郎訳
原書房

ノルマン人がイギリスを征服したことを
ノルマンコンクェストというのは「ロンドン」という
大長編を読んだときに知った。
イギリスでノルマン人の征服を受けなかったのは
スコットランドと
湖水地方だけだったらしい。
シールド・リングと呼ばれる盾の輪を心の中に持ち
結束してノルマン人に抵抗したのが、
ノルウェーからイギリスにやってきた
ヴァイキングの子孫たちだ。
かつては征服者だった彼らが次には征服される者になる
これは歴史の悲劇かも知れない。
湖水地方の谷の奥で一族を指揮し戦う三人の男。
族長のブーサル、アリ・クヌードソン、族長の弟でアリの養子エイキン
友好関係を結ぶためにアリがノルマン人のラルヌフ・ル・メスカンのもとに交渉に行くのだが、相手は彼を虐殺して帰す。
それが谷に住む人の結束を強めて「シールド・リング」という
心の砦になるのだ。どんなにシールドリングの秘密を強迫されても
誰も自白しない、そういう鉄の結束。
30年間その結束を守り、最後の戦いにノルマン人を追い払う。
少数の部族で、地理を生かして敵をおとしいれる知恵を働かせたのが
ビョルンだ。竪琴弾きの養父ハイトシンから竪琴のわざを引継ぎ
「剣の歌」を歌う彼は、いるかの紋章つき指輪を引き継ぐものだった。
湖水地方というとピーターラビットの故郷で
ナショナルトラスト発祥の地。なだらかな丘とたくさんの湖の
美しい土地に荒々しくて粘りづよい戦いの歴史があったとは
おどろきだ。他者に征服されることを潔しとしない人々
自分たちの生活を守り抜こうとする人々の心。
それは土地を昔のままに守り抜こうとするナショナルトラストに
引き継がれているような気がする。
この地で飼われていた羊の毛を脱色せず
そのまま使ってヴァイキングの旗に
オオガラスの絵を刺繍する場面があったが
あれはポターさんが飼っていたハードウィック種の羊なのだろうな
と思ったし、ノルマン人を撹乱させた「どこにも行かない道」が
もしか今も残っているのかもしれないと勝手に想像している。
族長ブーサルの名前がバターメア湖の名前で
残っているというらしいから。
ビョルンが戦いの後に歌うあらたな始まりの歌。
心に砦を持ったものが引き継いでいく新しい歌
いい終わりかただ。



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