Shigehisa Hashimoto の偏見日記
塵も積もれば・・・かな?それまでこれから


2002年10月15日(火) アニメ思い出館 第5回 「劇場版 DRAGON BALL 神龍の伝説」 後編

「DRAGON BALL 神龍の伝説」紹介記事の後編です。前回では個人的に好きなシーンを書き上げるところまで終えました。今回はそのシーンの感想からです。前回を読んでない方はお読みくださることをお勧めします。

シーン解析
緊張と解放が交互に奏でられ見事な高揚感を醸し出すことに成功している。ブルマとパスタの対決がこのシーンのメインであるが、両者の対比によってキャラクター性がはっきりとにじみ出てくるから流石である。音楽もそれ行け調で作品を元気付けている。また、このシーンは開巻当初に存在する「映画と観客との溝」を埋め合わせて映画に没入させるきっかけを作ったという点でも重要である。事実、私はこれ以降の展開にぐいぐいと引き寄せられる印象を受けた。それだけこのシーンには吸引性が高い。この”つかみ”の演出しだいで映画の出来はいかようにも変わる。そして本作ではそれが格別に功を奏したのである。

キャスト
まずはTV版にも登場するレギュラーキャラから紹介したい。
主役・孫悟空を演じたのは大ベテランにして少年声の雄・野沢雅子である。悟空の声は野沢氏以外に考えられないだろう。元気があって、素直で、巧まざる茶目っ気も持っている悟空は彼女にしか表現できない。最早言動無用、不世出の名声優である。
ブルマは独特な声を持っているにもかかわらず、ドキンちゃんから美神まで幅広くこなす鶴ひろみが演じた。そのおきゃんで可愛らしい魅力を存分に発揮している。TVシリーズは実に何十年もの歳月をかけた物語であり、その中で当然ブルマも少女から落ち着いた中年の女性へと年輪を重ねてゆくのだがその各時代のブルマを見事に演じ分けていたのが印象的である。

ヤムチャ役は古谷徹。「巨人の星」での力んだ演技から抜け出て2枚目半的なヤムチャを的確に演じている。余談だが扱いが次第に哀れなものになってゆくヤムチャにとって本作は唯一のかっこいいシーンが拝める作品として貴重である。
亀仙人の宮内幸平もまた大ベテランである。「ハイジ」のおんじや「一休さん」の和尚様のような威厳がある役と今回のような役のギャップが凄まじい。声質で演じ分けているのではなく、円熟味溢れる演技によっての演じ分けである。まさしくお見事の一言。

そして忘れてはならないのがナレーションの八奈見乗児である。本作では冒頭にしか出番がないがそれでもおどろおどろしい語り口で強烈な存在感を出している。本来ナレーションは作品世界を邪魔しないような語りが要求されるが八奈見氏の前においてはそんな不文律も通用しない。いや、そもそもナレーターとして成功している人は強力な個性を出しつつも映像と一体化して作品をよりレベルの高いものに昇華させてしまうものなのだ。「タイムボカンシリーズ」の富山敬然り、「ちびまる子ちゃん」のキートン山田然り、である。八奈見氏の声もこの両者に負けず劣らずの力量で「DRAGON BALL」の世界観を立脚する最重要ファクターを構成していたのに間違いないのである。

つづいてゲストキャラ。
パスタはこのコラムではおなじみの小山茉美である。今回の役どころはグルメス王をそそのかして巨万の富を得ようとする冷酷な女性、というものなのだがアラレちゃんともレミー島田とも全く違うこの役をまたしてもしっかり演じきっている。その上手さにただただ感服するのみである。ポンゴ役は納谷悟郎氏。銭形警部でありショッカー首領であり、そして沖田十三である。持ち前の力強い声を全面に出してポンゴを好演している。そしてグルメス王はなんと森山周一郎が担当している。「刑事コジャック」のテリー・サバラスやジャン・ギャバンの吹き替えで知られた低音部から響いてくるような声の凄みをここでもたっぷりと堪能することができる。それにしても、レギュラー声優だけでも文句なしに豪華なのに、森山氏をゲストに招き入れるほどの余裕があるとはなんと贅沢な作品であろうか。このほかにも飯塚昭三もゲスト出演しており「DRAGON BALL」の製作資金の潤沢さを物語っている。

「DRAGON BALL 神龍の伝説」は映画版の記念すべき第1作ということ以外にも沢山の見どころがある作品である。アニメーションの本来あるべき姿の「胸躍る楽しさ」を追求した点でも評価の高い一作と言えるだろう。<第5回 後編 終わり>


橋本繁久

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