Shigehisa Hashimoto の偏見日記
塵も積もれば・・・かな?それまでこれから


2002年11月02日(土) ”この人の声に酔いたい” Vol.1 富山敬

概論
富山敬(とみやま・けい)代表作:「宇宙戦艦ヤマトシリーズ」古代進、「UFOロボ グレンダイザ―」デュ―ク・フリード(宇門大介)、「タイムボカンシリーズ」ナレーション、他多数。二枚目から二枚目半、三枚目、ギャグキャラ、変人、妖怪、さらにはナレーターまで何をやっても超一流の力量を発揮する人である。ディス・イズ・ボイス・アクターであり、何から何まで全て完璧であり、もう言いようもないほど素晴らしい役者である。
デュ―ク・フリードが見せた正義と愛の心、「タイムボカン」での冷静かつコミカルなナレーション、「イッパツマン」のシャイな好青年、「ゲゲゲの鬼太郎(3作目)」のいかにもずる賢いねずみ男、「ちびまる子ちゃん」の愛情深き老人・友蔵、以上全て富山敬が当てていなければその魅力は半減していたに違いない。洋画の吹き替えでも2枚目からイッちゃってるキャラまで自由自在に活躍。残念なことに95年に物故されたが、その輝かしき業績は今でも色あせることはない。

独断のプレビュー
私がはじめて富山さんの声を聞いたのは、やはり「タイムボカン」であろうか。疑問系にどどめるのはあまりにも小さい頃から慣れ親しんできた声なので記憶が定かではないからだ。そのタイムボカンにしたって勿論リアルタイムの放送時には生まれていないor物心がついていないから、再放送(朝の五時半ぐらい)での邂逅である。何遍も言っているが私はタイムボカンシリーズが大好きで、それこそリピート放送だろうと早朝放送だろうと食いつくような勢いでみていた強者であった。その中においても富山さんの「解説しよう!」はお決まりの台詞であったことも手伝って一際耳に残ったものである。このナレーションが珠玉の逸品なのであった。善玉には甘く、悪玉には容赦ない。登場するキャラクターを馬鹿にするナレーションなど、この作品以前にあっただろうか。今考えてもつくづく斬新なナレーション手法だったと思う。この”ツッこむナレーター”はやがて「ちびまるこちゃん」でキートン山田が確固たる新境地を切り開き大好評を博したが、元をたどれば富山氏のそれが源泉であることに間違いないはだろう。まさにアニメナレーション界のエポックであったのだ。
そんな富山さんがボカンシリーズ6作目「逆転!イッパツマン」でついに主役を演じることになる。これがまた素晴らしくカッコよかった。明らかに今までのシリーズの主人公よりも大人の雰囲気を漂わせており、それが作品を締りのあるものに引き上げていた。勿論、富山氏の力量があってこその話である。「イッパツマン」が他の作品よりもとりわけ成功しているのは富山氏が主人公をやっていたことが重要な要因のひとつであった。

次に富山さんの声を聞いた作品は「ゲゲゲの鬼太郎(三代目)」である(戸田恵子が鬼太郎役)。この作品ではねずみ男を演じていた。私は「鬼太郎」は大好きであったのだが、ねずみ男は嫌いで嫌いで仕方なかった。ずるいし、卑怯だし、すぐ敵の妖怪に寝返るし、おまけに夢子ちゃんにはちょっかい出すし、で憎ったらしくてしょうがなかった。裏を返せばそれだけ印象深いキャラクターだった訳である。でも、たまに鬼太郎に協力したり、意外と情にもろいところもあったりして極稀にそういう描写があるときはとても頼もしく見えたものだ。これも富山氏の味のある演技の賜物であり、確かな実力があったからこそあの妙味を表現できたのだと思う。余談だがこの作品、今見てみると声優陣が無茶苦茶豪華である。

そして「ちびまる子ちゃん」のおじいちゃん役である。ひたすらまる子に甘い、ちょっとおとぼけのおじいさん・友蔵をまさしく好演していた。本当に味わい深い演技だった。友蔵がまる子を呼ぶ時の「まる子や」なんて、孫が可愛くって仕方ない老人の愛情が滲み出ていて、その声を聞くだけで心が和んだものである。この作品の放映中に富山さんは亡くなわれてしまい、以降青野武が代役を務めているが、私はこのキャスティングに不満である。青野氏は無論大ベテランであり、私も嫌いなどころかむしろ大好きであるが、富山氏とは声質が全然違う。青野氏の演技の質ならやさしい人よりも厳しさの中に毅然とした態度を光らせる役の方があっている。雰囲気があわないから違和感が出てくる。このキャスト変更の時期は、「ちびまるこちゃん」の作品自体が自序伝的痛烈エッセイアニメから、やたらエキセントリックなキャラばかり出てくる陳腐なアニメに成り下がった時期に重なり、私がこの作品を見限るきっかけとなってしまった。

異色なところでは海外ドラマ「特攻野郎 Aチーム」なども印象深い。富山さんはなんと精神病院からの脱走患者という役どころ。何分私が小さい頃に放送していた番組なのでほとんど記憶にないが、冒頭の各キャラクターの自己紹介が印象的だった。富山さん演じるマードックは「奇人?変人?だから何。」というものだったが、もし富山さん自身の自己紹介だったとしたなら「天才?秀才?だから何。」とすべきであろう。

富山さんが亡くなわれてから、彼の業績をたどってみて驚いた。本当に多彩な役をこなされているからだ。「グレンダイザ―」のデュークが富山さんだったとは・・・「ダブル・ハーケン!」なんてカッコ良すぎである。かと思うと「あさりちゃん」ではパパを演じている。これは完全に友蔵タイプ。タタミとママに無茶苦茶されている(?)あさりにとって、パパだけはやさしい味方だった。「ザ・ウルトラマン」のヒカリも演じている。これは古代進に通じるものがあると思われる。その他いちいち挙げていたらキリがないので割愛させていただくが富山さんの偉業は充分わかっていただけたと思う。

アニメの黎明期から活躍を続け、数々の素晴らしい業績を残した富山さんに、私は心から”ありがとう”と言いたい。


橋本繁久

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