お盆のあいだ外の空気には お線香の匂いが混じっていて この土地には意外に お墓が多いことに気づかされる 街中にお寺は沢山あるし ちょっとした山の斜面にも いくつかお墓が寄り添って並んでいる
なんの地縁もない場所なので お盆のあれこれとは無関係に過ごしながら ふと菊丸のことを思い出した 犬も死んだらお盆に帰ってくるのだろうか 最近は忘れていることが多くなり お水は変えているものの 好きな食べ物も半分に折ったお線香も たまにあげる程度
けれど時々 夜遅くにパソコンに向かっていると 隣の部屋の床が鳴ることがある 誰かが入ってきたのかと思い 振り返って見てみると誰もいない それでいつも なんだキクかと気付いて安心するのだった
遅いのだから 寝室で先に寝ればいいのに いつもキクは パソコンに向かっているわたしの後ろにある サッシのガラス越しにどさっと身を投げて 半分寝ながら終わるのを待っていた そうしてわたしが寝室へ移動すると すかさずついてきて頭の上の方へ陣取り 反対側から同じ枕を使おうとするのだった
何故思い出したかと言うと やっと形が決まったチョークバックに ビーズを縫い付けていたせい 最後になるとは思わなかったその日 具合の悪いあいつのそばで様子を見ながら 同じようにビーズを使っていたのだ 半分毛を切った大きなからだの上に ぽろぽろとビーズを取り落としては拾って 何かを縫っていた
あれから随分経つのに なんだか相変わらず同じ事をしているようで ちょっぴりこころが痛くなる いつも近くにいてくれるのかもしれないけど 今日はなんだか無性にキクに会いたいや
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