売り場からの帰りに こうのとり感謝祭で知り合った 呉服屋さんに寄った 先の台風で浸かった反物が 残っているというので見せてもらった
どれもきちんと専門業者に頼んで 綺麗に洗い済み 既にいくつかは 事情を話して安く売ったそうだが どれも元は上代で20万円前後 画家の手描きの反物あり 縮緬なのに紬風のものや まずこれまでお眼にかかったことのない 上等の品々ばかり
知り合ったのは娘さんだったが この道何十年のお父さんも同席してくれて 着物にまつわるお話しをあれこれ まずここのところ自分で調べて ちょっと知識を仕入れた結城紬について 糸を紡ぐのにも適齢があり 織りあがった反物は 感情の乱れすらも検品時に見抜かれ 撥ねられてしまうということだった
その人に似合う着物を選ぶには 初めて会った一瞬のうちに 性格や癖まで見抜けなくてはならないと聞き 思わず居ずまいを正したくなった お客さまが好みで選んだものと 似合うものとは違うことも多く 売りたいがために推し負けては 結局双方後悔することになるという
振り袖を選びに来た母娘に お嬢さんに似合う着物は選べないと 断わったエピソードも披露してくださった 親への反発が姿に表れていて とても着物を着るという心ではなかった所から まるでカウンセラーのように会話を重ね ようやく選べるようになったのだそう
着物は着る人の 内面の美を引き出すもの との言葉 だからこそ その人の飾らない素が見えなければ ひとつの反物を奨めることすらできないのだろう あまりにも極められた 人に対する商いの本質
まるで貴重な授業を受けたみたいに いつまでも興奮が冷めないままだった
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