雨が降り止まなかった。更にそれを風がさらっていくようで、誰も居ない通りを雨は駆け抜ける。私は雨が窓を打つ音を数えたり、湯を沸かしてお茶を注いだり。窓から見るにつけ、通りかかったのは、古傷みたいな野良犬が一匹ばかり、古い新聞紙みたいなアパートでは少し無聊に過ぎた。壁土が重い息を吐き、重なった影は互いに悪い遊びに耽っている。 四角い鏡台を覗き込んで睫毛を整える。靴下はまだ片一方しか履いてない。散らかった四畳半、電話はさっきから中々趣きのある間隔を置いて鳴り続けていた。構わず飛び跳ねるリズムで台所と居間を行き来している。何かに蹴躓いて、拾い上げてみるとそれは黄楊のケンダマで、それは朱に塗られ、黄色と青のボーダーで首を締めてある。昨日、下北沢の雑貨屋の軒先から引っ掛けてきたものだった。昨日は雨の音に合わせてタントンタントンとずっと遊んでいた。持ち出すとまた思い出してしまい、またケンダマをはじめる。電話もまた鳴り始め、やがてどちらも止んでしまう。雨の日の電話は黙々としていて、まるで天国の匂いを嗅ぐ赤い子馬みたいだった。
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