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ラヂオスターの悲劇
トマーシ
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2003年10月15日(水)
ナイトフード

 いたたまれない眠りから醒めて、フラフラする頭をしっかりさせる為、ブルーのクーラーみたいな飲み物を頼む。

 海に沈んだホテル、ラウンジに降りていくが、客は一人もいない。痩せたバーテンがシェーカーを振る音だけ。

 どのテーブルもツルツルに磨き上げられ、空気はまだツンと取り澄ましていた。硬くて透明な気分。

 食欲は無い。特にここにいたいわけでもなかった。だがバーテンに話し掛けてみる。

 まだ僕の知り合いのめぼしいところは来ていないとのこと。

「今は・・・ 昼の四時だよね?」

自分の声は割れ鐘のように虚ろに響く。

「はい。四時・・・十分を少し廻ったところでございます。」

と、バーテンは自分の左腕に掛けた時計を目線に垂直に俯いて、それから最も適切な時間を拾い上げてきた。

 それからみんなの近況を聞いてみる。近況といっても、今日何処にいっているのか?ということ。

「そんな名前はしらないよ。」

それは何年か前に人魚を捕まえてきたという男の話。

「話は又聞きしたけど・・・」

バーテンは少しハッとした表情を見せて、また違う話に移る。ところがこれも僕の知らない男の話だった。

 目を瞑り、瞼をゆっくりとさする。そして十年分の夢を吐き出すみたいに長々と溜め息をついた。

 何の夢を見たのかまるで思い出せない。数日同じ夢を繰り返し見ているようだが。段々鮮明に、段々詳細になっていくようだ。重い夢に息が止まりそうになって目が醒める。でも目が醒めると、スイッチが切り替わってしまい、何の夢を見たのかまるで思い出せないのだ。

 時限爆弾か、月の呼ぶ声なのか、様子を伺っているわけだ。

 バーテンが気を利かせてチョコレートを盛った皿をカウンターを廻って差し出してくれた。

 少し芝居っけを出していいかもしれない。

 ローズライムのギムレット 砂糖は無し。

 そう頼むと、僕の気分も、バーテンの顔も、幾分明るくほころんだ。