いつもはマンションの門まで見送りに来る母がこの日は玄関先で手を振った。
ションボリとした浮かない顔で下を向いたピーと、鼻歌交じりで踊る様な足取りのクン。 そんな対照的な二人と共にテクテクテクテクと歩いていたら、マンションの裏門がある方の脇道から母が現れた。 そして「その荷物、やっぱりビニールだと手に食い込んできて持ちにくいでしょう」と空の紙袋を差し出してきた。
結局、駅へ続く道の途中にある川にかかった小さな橋の所まで、ピーと手を繋いで歩いてくれた母。 紙袋は口実だったのか単なる思いつきだったのか、それはまぁどちらでもいい。 やっぱり母とピーはよく似ている。 だけれども、たとえどこで別れても、離れがたい人との別れが寂しい事に変わりはない。
電車を乗り継ぎ乗り継ぎしていれば、1時間とちょっとなんてあっという間に過ぎてしまう。 車窓の向こう側に飽きるくらいに見慣れた日常くさい景色が広がってきた頃には、ピーの表情もいくらか明るくなっていた。 子供っていうのは弱いけど強いもので、数日ぶりにウチの最寄り駅に降り立つや、「買い物してく?してかない?」なんて非常に生活に密着した質問を投げかけてきた。 買いたい物がないわけじゃなかったけれど、「今日はもう家でゆっくりしよう」という事になり私達は足を速めた。
数分後、家の裏手にある公園が見えてきた途端、ピーがその入り口へ向かって走り出した。 遊び友達の姿でも探していたんだろうか、公園内を見回した後、再び私とクンの所へと戻って来た。 鼻歌交じりの踊る様な足取りで。
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